第8話 決戦前夜、親友と

 今日も練習が終わり、俺は帰宅の徒についていた。


 いよいよ明日、香田との中学生活の最後の試合を迎える。最後が決勝の舞台と云うのも感慨深いものがあるが、自信はある。それだけの努力をしてきた自信が。



「おお?大輔!」


 家の近所の商店街を歩いていると、同じく練習帰りであろう高橋が声を掛けて来た。


 家は近いんだが、学校が違うからこうやって会うのはそう多くない。


「よう、高橋。明日は宜しくな」


「ああ、胸を借りるつもり…と言いたい所だけど、明日は本気で勝ちに行くからな」


「ほう、凄い自信だな。ま、準決勝を見た限りだと、東条ウチに勝てるとは思わないけどな?」


「なにを~。今回の世田三ウチは一味違うぞ?なんせ、ウチの“皇帝様”が燃えに燃えてるからなぁ」


 皇帝…香田の事か。


「圭司の練習量は尋常じゃ無いぜ。兎に角お前に負けたく無い一心だからなぁ」


 香田の努力の源が、俺への対抗心ってか。これじゃあ前の時間軸と正反対だな。


 でも、確かに香田の成長は目を見張る物がある。世田三を決勝の舞台にまで導いたのだから。



 中学生になってから実際に試合で対峙するのは、今回で三度目になるのだが、俺は香田のプレーは折に触れてチェックしていた。

 前の時間軸の人生でも香田のプレーは逐一チェックしていたのだが…確かに香田は現在俺の影に隠れている。でも、現時点の香田は前の時間軸での現時点での香田よりも遥かに優れたプレイヤーに成長していると思う。


 前の時間軸での香田は、この時点ではまだ才能任せのプレイヤーだった。でも、現在の香田はサッカーを勉強しているのが良く分かる。視野が広くなり、試合をコントロールする力にも長けている。

 その上、自分で行く所は行く積極的なプレーも見せ、よりオールラウンダーな選手に成長していた。


 俺と云う越えるべき壁に、全力で立ち向かっている結果なのだとすると、少々複雑だな。



「高橋、香田とは仲良くやってるのか?」


「ああ。アイツ、寡黙そうに見えて、普段は結構冗談も言うし、案外面白い奴だよ。まぁ、お前の話しになると目の色が変わっちゃうけどなぁ」


「怖っ。どんだけ嫌われてんだよ、俺は」


「まあ、嫌いって事は無いんだろうけど、お前がいなかったら多分アイツももっと注目されてるだろうからなぁ~。負けたくないって気持ちは伝わってくるよ」


 …俺がいなければ。確かに、タイムスリップする前は、香田は今の俺の立ち位置にいたからな。そう考えると、申し訳無く思ってしまう。



 でも、俺は俺で、このやり直しの人生を必死で生きている。香田に負けない為に、タイムスリップ前の自分より凄いプレイヤーになる為に!

 遊びや恋愛に目も暮れず、サッカー漬けの毎日を送ってるんだ!



「高橋、香田はまだ俺を倒すつもりでいるんだろ?」


「ああ。ありゃあ、一生懸かっても、お前に勝つ為に努力し続けるかもしれないぜ?」


「だったら伝えといてくれ。俺に勝ちたかったら、せめて早く俺の眼中に入れる位になれって」


「ハハハッ、流石王様、言うねぇ。ちゃんと伝えとくよ。アイツ、更に燃えるだろうからなぁ」


「返り討ちにしてやるよ。じゃあな!」



 火に油を注いでしまったのかもしれないが、タイムスリップ前の香田は俺の事なんか本当に眼中に無かっただろう。その悔しさは、俺の燻っていたプロ生活の原動力にもなっていた。

 だから、これは俺のお返しだ。器が小さい自分が悲しくなるけどな。


 だって本当は眼中に無い所か、俺は多分、香田が俺を意識している以上に、俺が香田を意識しているんだから。



「じゃあな!大輔!明日は圭司だけじゃなく、俺がいる事も忘れんなよ!」


 高橋もまた…いや、高橋が最も前の時間軸と比べて成長しているかもしれない。


 本来の未来では大学までサッカーを続けたが、訳あって中退後に家業を継いだのだが、今の高橋なら真面目にプロを目指せるかもしれない。なんせ、サイドハーフとして東京都の選抜に選ばれる程だから。


 因みに、香田も都選抜だが、俺は都の選抜の練習会とかには参加していない。年代別の日本代表で忙しいから。



 タイムスリップした事で、俺だけでは無く、周りの人間の人生も大きく変わった様な気がする。


 それが良かったのか悪かったのかの答えは、これから出るんだと思う。だからこそ、今は頑張るしかないな。

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