しかし、部屋に入り ひとりになると、また別の考えが頭をよぎります。   


 ……なにか、おかしい。なにか変だ…………  



 これから足を踏み込む未知なる世界のことを考えると不安になり、昨日のことを考えると、居酒屋のマスターと 乙姫子にはめられたのではないかと、疑心暗鬼になるのです。          

 なぜ もっと早く生活や仕事のことを真剣に考えてこなかったのか、という悔やみの気持ちもわいてきます。     


 あれこれ考えているうちに眠りにつき、夢の中でも船の底で のたうち回る自分がいる。


 はっ、と目か覚めるとたくさんの汗をかいて、固いベッドでうなされていたであろう自分に気が付くのです。      


 食堂での食事の時もそうです。 


 島太郎が食堂のすみでひとり食事をしていると、物珍しいのか 誰彼なく話しかけてきます。      


 みんな、同じように自分の過去について話し、ここでの生活や仕事の悪口をいうのです。      


 島太郎は人の過去などには興味はありません。

 ましてや これから長い間すごすことになる『ここ』がどんなに最悪かを聞いたところで、心は重たくなるばかりです。


 ……俺はこんな奴らと違うんだ。こんな怠け者でも、浪費家でもないんだ…………


 そう自分に言い聞かせながらも なお、今までの自分が彼らと同じだったと気付き、また重たい気持ちになるのです。


 そして、そんな島太郎の様子を、まるで監視するかのように見つめる乙太をみつけては、にげるように部屋に帰るのです。               

     

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