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旅は順調すぎる程に進んでいた。ロイガーが用意した獣避けの薬の効果もあり、護身用にと手にした剣を引き抜く事もなくただ過ぎていく景色を眺めるだけの日々が続いた。

はじめは目に映る全てが目新しく感じていたものの、何の成果もなく過ぎていく日々に次第に焦燥感を覚える様になっていた。だからだろう、最初の目的地である森がようやっと見えてきた時、アニヨンは言った


「ねぇ、もうちょっと急いだ方が良いと思うんだけど、なんとかならないかな?」


「なんとかって……夜中にも歩くか?」


それまでの単調な旅路が、兄の道具の恩恵による慢心が、そして焦燥感が判断を狂わせ……現在に至る。


「夜通し歩いて迷子になっただけ、なんて笑い話にしかなんねぇよチクショウ」


ぼやいても仕方がないとは思いながらも不甲斐ない自分に悪態を吐かずにはいられ無かった。鬱憤晴らしに小枝を火に投げ込むとパチンと弾けて大きな音を立てて、大地が揺れた


「えっ、ちょっ!なに!?」


まるで波が地面を這った様なそれはカタールの知る、地中から足元を揺らされる地震とは違う未知の衝撃であった。カタールは急いで焚き火を踏み消すと未だ夢の中のアニヨンを目覚めさせに掛かった。


「起きろアニー!何かあったぞ!」


「ふぇ?な、何?何かって何!?」


ピチピチと軽く頬を張ると数秒で彼女は目を覚ました。状況を理解しようとするアニヨンにカタールは短く応えた


「わかんねぇ。でも多分、あっちに何かあるんだ」


カタールの視線の先、鬱蒼と茂る緑の向こう、先の見えない暗闇の中で、彼等の冒険が始まろうとしていた。

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