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まだ真昼と言って良い時間ではあったが、休憩する事を決め横になるとアニーはすぐに寝息を立て始めた。

昨夜も、いやここ数日睡眠時間を削っての強行軍だったのだ。張り詰めていた緊張が解けば肉体が休息を欲しがるのは当然であった。

カタールは寝ているアニーを起こさない様に火を焚き、荷袋から取り出した干し肉を噛みしめた。


「ほんと、何考えてんだよアニキ……」


ぼそりと漏れた言葉は旅の間何度も頭の中で木霊した、カタールの本心に他ならなかった。


ことの始まりは十日ほど前に遡る。

その日、カタールの産まれ故郷は村一番の出世頭の帰郷に浮き立っていた。

焔を纏う聖剣の担い手にして、この世に現れた魔王を三度倒した勇者ロイガー・タキシス、彼がこの名も無き開拓村の農民の子だと知る者は多くない。

それは都の詩人達が王家の御落胤だとか神殿の秘蔵っ子、魔王に滅ぼされた村の唯一の生き残りなどと好き勝手に吟った結果であり、また勇者ロイガーが自分の故郷をなんと呼べばよいか思い付かなかったからでもあった。


「って事で村の名前を『タキシス村』にしようって村長張り切ってたぞ」


数年振りに帰って来た実家の椅子に腰掛け、ロイガーは事も無げに弟に告げた。


「いや、止めてよ。俺が居ずらいじゃん」


そう言ってロイガーは同じ栗色の髪、碧い瞳の青年、カタールと笑いあった。

二人は三歳差の兄弟とは思えない程によく似ていた。眼に見えて判る違いは兄の方が若干背が高く、弟の方が筋肉質で日に焼けている事が挙げられるが、それでも二人はよく似ていた。

日はとっぷりと暮れた時分であった。家の外では未だに酒会が開かれている、兄との積もる話に未練もあろうがカタールは兄を送り出そうと決めた


「ほら待ってる奴が居るんだ、これ飲んだらとっとと行ってやれよ」


空になっていた杯に葡萄酒を注ぐとロイガーは居住まいを正してそれを飲み干した


「俺はもう行かないといけない」


「そうだ「カタール、頼みがある」


相槌を遮って言葉は続く


「俺は三度魔王を倒した、しかしあいつはまた復活してくる。これからすぐにガルボへ発つが、それからはあいつが甦らなくなるまで離れられなくなる。」


魔王コプリヌス、兄はそいつを倒して勇者と呼ばれる様になったのでは無かったのか、三度倒したとは?蘇るとは?矢継ぎ早に紡がれる話に疑問が渦を巻く

その中でも1つ、聞かなければならない事があった


「待って「詳しい事はアニヨンに伝えてある。お前はあの娘と一緒にある物を探して届けに来て欲しい。ただ、その探し物が厄介なんだ」


被せるように続いた言葉にカタールは押し黙る。質問に答えるつもりは、或いは時間が無いと言外に伝えられたのだ。

ロイガーは顔をしかめた


「おまえ『ヴァンブレード 』は知ってるな?」


聞き覚えのある名前にカタールの口からは間抜けた声が漏れた。


「あんな御伽噺に希望を託さなきゃいけないくらい、実は追い詰められてんだ」


そういって人類の希望は扉を開けた。

世界の命運を決める戦いが始まろうとしていた……

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