ピカレスク・ニート〜やがて英雄へ至る少年と、ふたりの美しき精霊魔法使いとの冒険

Ginran(銀蘭)

異世界邂逅の章 君の名は編

第1話 異世界邂逅ノ章・キミの名は編① 目覚めと戸惑い

 暖かな日差し。

 頬を撫でる若草の感触。

 風はどこか涼を孕んでいて心地いい。

 僕は平原のど真ん中で、呆然と青空を見上げていた。


「ええ……?」


 間の抜けた声が漏れた。

 何故僕はこんなところにいるんだろう。


 確か昨晩は、徹夜でネトゲのクエストをこなしていて……。

 ようやく眠りにつこうかと思った矢先に心深ここみのヤツがやってきて。

 学校に来い、嫌だ放っておけ、などなど。

 いつものようにドア越しに怒鳴り合って、僕はそのままふて寝をして。


 ああ、なるほど。


「心深のイタズラか」


 でもそれにしたって酷くない?

 気がついたらなんにも無い大草原でひとりっきりですよ。


 こっそり隠し撮りして、僕が慌てふてめく姿をYou Tubeにアップするつもりか。

 タイトルは『堕落したニートを野生に還してみた』とか?


 動画説明には『学校にも行かずにネトゲばっかりしてる幼なじみにお灸をすえることにしました。彼もいきなり文明の利器から遠ざけられて、ヒトとして大切なものが欠けているのを自覚してくれるでしょう』とか書かれたりしてるのかも知れない。


「ふざけんな。誰がそんなの自覚するもんか」


 のっそりと身を起こし、辺りを見渡す。

 しかし本当に何もないな。

 空と雲と大地しかない。

 コントラストは蒼と白と緑だ。


 しかし、こんな風景を見るのはいつ以来ぶりだろう。

 小学生のときに行った高尾山とはまた違った雄大さだ。

 都心に暮らしているから、たまにはこういう景色もいいものである。


「って何をのんきなことを言ってるんだ僕は」


 今何時だろう、といつものようにポケットからスマホを取り出す。

 時間は正午を過ぎたばかりだった。


「なんだよ、スマホを取り上げ忘れたのか心深のヤツ」


 ふははは、馬鹿め。

 これさえあれば現在地から最寄りの駅までタクシーでも捕まえて帰ってやる。


「グー●ルさんグー●ルさん、こちらはどこですか?」


 ポーンとアプリが立ち上がり、GPSが起動する。

 いつもより走査が長いな、と思いつつ更にポケットをまさぐる。

 金はないが、着払いでいいか。もしくは交番で借りてもいい。


 帰ったらなにしようかな。

 風呂入って飯食って、昨日のクエストの続きだな。

 いや、その前に幼馴染に一言文句を言ってから、タクシー代を請求しなければならないだろう。


 そうこうしているうちにようやく検索結果が表示される。


『あなたの現在位置を見つけることができませんでした』


 ホワイ?

 電波の入りが悪いのだろうか。

 あれ。というか電波自体がきてない?


「マジか……」


 僕こと成華なすかタケルは、幼なじみに見捨てられたようだった。

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