第26話 勇者さま御一行がやってきました その1

『パンパカパーン』

 

 来客を告げる音で目が覚めた。昨日はテトラに手を握られた所為で、なかなか寝付けなかった。

 テトラは帰ってすぐに眠っていたが、寝顔を見てると余計に目が冴えてしまい、結局日付をまたいでしまった。

 

「ご来場・・・ありがとうござむ・・・・」

 

 テトは寝ぼけ目で呟いて、自分の声で意識が覚醒する。

 

「!?

 今何時ですか!?」

 

 作った時計に目をやると、まだ朝の六時半でした。どうりで眠たいわけです。

 五時間くらいしか寝てないですね・・・。テトラは起きてるんでしょうか?

 テトラを探して目をやると、既にモニターの前に座っていた。早く寝たから、朝も早いんですね。

 今日もお客さんが来るのを楽しみにしてたんでしょうかね。それに、最近は本当に人間の姿になってる事が多いです。


「おはようテト。」

「おはようテトラ。」


 寝ぼけた声が聞こえていた様で、テトラも振り返って挨拶を交わす。起きた時に、誰かがいるのっていいですね。一人じゃないって実感します。

 

「今日はどんなお客さんが来たの?」

 

 起き上がって、テトラの元へ向かう。こんな朝早くからのご来場は初めてです。

 欲を言えばもう少し眠りたかったんですけど、お客さんが来たらモニタリングしなくちゃね。

 これもまた楽しみですから。

 

「今日は割と強そうなのが5人だな。今までで一番様になってるパーティーだと思うぞ。」

 

 テトラの横に座って、その強そうなパーティーを観察してみる。男性3人に、女性が2人ですか、みんなそれぞれ違った装備をしていますが、どれも凄そうに見えます。

 先頭を歩くのは青空色の髪をした、騎士の様な格好した青年。その後ろを女性が2人、魔導師の様な格好をしています。最後尾を大きなアックスを持った戦士と、レイピアのような細い武器を装備している青年。

 戦士の人はめちゃくちゃでかいですね、ムキムキマッチョで厳つい感じです。それに変わってとなりの人は長いストレートの金髪でイケメンです。絶対モテるんでしょうねぇ。

 女性2人も大人のお姉さんって雰囲気があって、勇者のパーティーってこんな感じなのかな?って思っちゃうメンツです。

 

「なんだかカッコいいね。勇者さまの率いるパーティーみたいに見えるよ。前を歩く勇者に、それを援護するウィザードとヒーラー。さらに後方から戦士と騎士が目を光らせてるって感じがするね。」

 

 なんとなく、本で読んだ事のあるような配置にそんな事を思ってしまう。

 

「テト、何を言っているんだ?」

 

「あ、そんな雰囲気があったって話だよ?」

 

 多分そんなんじゃないんですよね。でも、そんな風に見えたんですよ。

 

「そうではなくて、お前が言ったままのパーティー構成だぞ?先頭の青年は勇者だろう。それに、後ろに続くのもお前が言った通りの職業構成だ。」

 

「そうなの!?」

 

 まさか、本当に勇者さま御一行だとは思いませんでした。それでは、ダンジョンの最奥まで進めてしまうんじゃあないでしょうか?

 

「テトラの出番もあるかな!?って、テトラが負けたら嫌なんですけど・・・。」

 

 勇者さまのパーティーだと、もしテトラが負けたりしたら最悪です。僕は友達を失いたくないので、もし出番が来てもテトラに出て行って欲しくはないですね。

 

「どうだろうな?そもそもこのダンジョンは長すぎる。一時間で三階層進んだとしても、200階層まで60時間以上かかるのだぞ?休憩を挟んだりすれば1日に進めるのは30〜40階層だ。復路を考えると少なくとも10日はかかる。

 普通それだけの準備をしているとは思えんがな。」

 

 テトラは腕を組んで、ダンジョンを進んでいく勇者さま御一行を眺めています。そうか、10日は長いですね。それを5人分もの食糧やらを準備するとなると大変です。

 でも、100階層くらいまではいくんでしょうか?

  

「じゃあ、どこまで行くのかを楽しみに見てみよう!」

 

 僕がそう提案すると、テトラはまたしても首を横に傾けた。

 

「まぁ多少は進むだろうが、強いとは言っても彼奴はまだまだ道半ばの勇者の様だからな。お前の捕まえた魔物次第だな。」

 

「彼奴はって、勇者って沢山いるの?」

 

 なんかテトラの言い方に含みを感じます。テトラも勇者にあった事があるんでしょうか?

 

「他の職業に比べては少ないがな、それなりにはいるよ。ある程度の才能と心を持って生まれた者は、天啓を与えられ勇者の資格を得るのだよ。」

 

 て事は、勇者のパーティーも珍しいわけではないんですね?勇ましい者と書いて勇者ですから、そういう人達は少なからずいるんですね。

 ある程度の才能が必要ってのは、やっぱり生まれながらに不平等を感じますけど。そんな事は分かりきってるので今更ですね。

 

「知らなかったよ。勇者って、世界に一人だと思ってた。」

 

「はっはっは。それは勇者の中でも活躍した者達の事しか語られていないからだ。

 考えてもみるがいい、一人しかいない勇者が死んでしまったら、次の勇者が育つまで世界に希望は無くなってしまうではないか。

 そもそも、勇者も一人では弱い。だからパーティーを連れて足りないものを補っているのだよ。」

 

 なんだか、今日のテトラはいつもより饒舌ですね。普段から色々と教えてくれますけど、やはり勇者のパーティーには期待してるんでしょうかね?

 僕も楽しみですし、テトラが沢山話しをしてくれるのも嬉しいです。

 

「あ、いつの間にか4階層も終わりそうだよ?あそこの階段を抜ければ5階層だ!」

 

 ストーンタートル、まだ復活してないですかね?

 

『あの岩はストーンタートルだな。リネル、いけるか?』

 

 勇者が後ろの女性に問いかけます。どうやら昨日の夜テトラに移してもらっておいたストーンタートルが復活している様です。テトラは魔力を与えておいたと言っていましたが、思った以上に復活が早かったですね。

 あと数日はかかるかと思ってました。

 

『任せといて、凍てつくヤイバで貫いてあげるわ!

 フリーズランス!』

 

 リネルと呼ばれたウィザードが、杖を正面に掲げて魔法を唱えました。するとストーンタートルを囲う様に、複数の大きな氷柱が現れて、ストーンタートルに突き刺さります。

 あの硬い岩を貫く氷って、どんだけの硬度があるんですか!?

 あっ!?貫いたところから氷が広がっていって、一瞬にして冷凍亀が出来上がっちゃいました・・・。

 

 す、凄いです。全く苦戦しませんでしたね・・・。少なくとも前に来た騎士団のウィザード達よりも強いのは分かりました。

 

『さ、次に進みましょう。』

『流石はリネルだな。見事な氷魔法だ!』

 

 戦士の人が口を開けて笑いながら、リネルさんを賞賛してます。

 ほんと凄いと思いますよ。彼らなら、6階層も軽々クリアするんじゃないでしょうか?

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