第3話 用無し"聖剣?"えっくすかりば


近年のMMORPGと言われるジャンルのゲームの多くには影や光のエフェクトがついている。

日の当たる場所は明るく、木や山の影は暗いと言ったものだ。

3DCGのソフトを使いモデリングしたあとエフェクトでもつけてみたことがある人なら分かるかもしれないが、思っているよりも簡単である。

何しろ、ソフトが勝手にやってくれるのだから。

ソフトと使いかたの説明書とそれなりのパソコンがあれば誰でも出来、しかも導入することでそれなりのものに見える魔法の品だ。

俺はMAYAを前提とした話をしているが、灰色だったポリゴンの円盤がエフェクトをかけるだけでメタリックなUFOになるのだからすごいものだ。

夏の特番でやっている画質悪めのUFOなんかは素人作でも15分あればそれなりに見えるほどにソフトが優秀である。


が、それ故に優秀過ぎるが故、雑なものを作って仕舞えば雑さが浮かび上がりやすい。



森を跳んで脱出し露骨なフィールドの境界を越えて荒野にやって来た。

森の隣はなぜか荒野なのだが境界が酷い。

綺麗に木が、イギリスがアフリカに引いた国境線くらい一直線に並んでいる。

その並び用はまさに壁。ベルリン……いやアメリカとメキシコの壁と言ったところか。風情がない、森感がない。

突然1チャンク異世界に森が飛ばされた感満載である。



またまたこの愚痴はひとまず置いておいて、先ほどの話に戻る。

光や影のエフェクトをかけるのはいいことだ。

俺もこのエフェクトがなかったらこんなゲームは続けていなかったかもしれない。

だがな、目の前にあるコレは、ちょっとどうかと思うぞ。



何もないはずなのに浮かび上がる黒い影。

何もないはずなのに照らされる地面とそこからXの字に伸びる影。


クリーチャーバスタークロスではこれを、


ーーーエックス狩場と呼ぶ。


エックス狩場(えっくすかりば)とは全く、何処ぞの聖剣みたいな名前である。

このおかしなネーミングはもちろん俺だ。

なんせ攻略情報を書いているのは俺だけだからな、必然的に俺がつけることになる。

サービス開始1年目、まだまだレビューが少なく騙されて買う奴がちらほらい時代。攻略サイトに書き込んだ"エックス狩場"という名前は他のプレイヤーにも受け入れられた。


エックスは何もないところに浮かぶX字状の影でわかるが狩場とは何か。

この不自然な光源と影は見えないがある……そんな不思議物体が存在する証拠である。

ここはクリーチャーバスタークロスにおける最重要要素のクリーチャーが湧くスポーン地点である。

スポーン地点は透明であるはずなのだが、これまたmade in チャイナが誇る技術、他者のプログラムコピー&ペースト+時間短縮の為の手抜きによる事象だ。


恐らく影や光をつけているソフト側はこのスポーン地点を物体として光や影をつけているつもりなのだろうが、実際にはないし、透明である。

この矛盾。


不自然な光源とXこれがエックス狩場。

湧き地点を超楽勝に探すことが出来るという点は、運営は意図していなかったであろうが、プレイヤーとしては嬉しい限りである。

素材は手に入るし、能力値上げが簡単だし……ありとあらゆるものが鬼畜であるこのゲームにおいてはもはや救済要素である。



例のマルチでの実績解除が出来ないせいでプレイヤーは縛りプレイをすることになる。

そう上、レベルなんてわかりやすいものはなく、代わりに能力値というもの。

ゲームでいうステータスが存在し、これをまずカンストさせるのがゲームを始める上での最低条件である。

実際を解除出来ない場合、プレイヤーは防御力0の見た目だけの服と耐久値∞の木製の武器を持って戦うことになる。

能力値をカンストさせない場合、気をつけていたとしても何かの際に木に触れて仕舞えば吹き飛ばされて即死する。

ゲーム後半でようやく手に入れられる盾や鍋を使えばそのようなことを回避できるのだが、まぁとにかく鬼畜だ。



普通、ゲーム世界に転移してしまった主人公たちは何かと、ゲームだった頃とは何か違うのかいうのを探していたが、俺は探さない。

もしも、ゲームの根本の部分の法則が変わっていたらその時は気付く前に死んでいるだろう。

少なくともこのゲームはそういうゲームなのだ。


だからわざわざ危険を犯して検証はしたくない。

検証してもいいことは何もない。

ゲームだった頃と何も変わらなくても現状はクソで確定。

ゲームだった頃と違えば絶望。

もしくは気づく前に死ぬ。


何もいいことはない。

そして、多分だがこのゲーム世界で協力出来る人間はいない。

安いゲームあるある、その③だ。

世界観ぶっ壊れの住人。

フリー素材から拾って来たのかコスプレ大会のように街中に溢れる時代錯誤の人々。

中世ヨーロッパの騎士から迷彩服の軍人、アニメのコスプレイヤー的な奴に、ゾンビ。


中でも一番悪質なのがゾンビだ。

ゾンビの見た目をしたNPCが街中にいる。そしてNPCを殺せるのがこのゲームの特徴なのだが、町の外にいるクリーチャー側のゾンビも同じテクスチャーであることが問題である。

普通のゲームならば街の中のゾンビは殺さない。

外は殺す、と分ければいいのだが、このゲーム、敵が壁を貫通して町の中に普通にクリーチャーが入ってくるのだ。

このゲームでは壁はもはや飾りである。

常在戦場の意識を持たなければいけない。

ストレスの溜まるゲームだ。

ストレスを発散するはずのゲームでストレスを溜めるとはまさに愚の骨頂。

本末転倒である。

だからクソゲーなのだ。

壁から空から、何もない空間から、目の前から四六時中クリチャーと戦うクソゲー。



それがクリーチャーバスタークロスである。……素晴らしい。



見つけたエックス狩場の前で暫し、既に能力値もカンスト、インベントリのアイテムも無限増殖バグでカンストしているので要はない。

ゲームの体だから疲れないがなんだか精神は疲れた。


俺は街へ向かうことに決めた。

たしかに街の防壁は役割を果たしていないけど、そのかわりNPCという肉壁は役に立つ。

奴らをクリーチャーの生贄に使うことで俺は安全に過ごせる。

うん、素晴らしい。

罪悪感なんて湧かない。

なんせNPCはクリーチャーと同じで生えてくるんだし。


NPCは肉壁だ。

所詮データ、所詮コピー品。

無限に増えるし感情はない。

そう、紛い物だから。

そう、俺は別に、サイコパスではない。


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