第2-2話転校生になれたものの

 「闇鱗あんりんからの使者。魔法少女りんり、惨状…」


 悪魔系モンスターのような尻尾と小さな翼を持つ金髪の魔法少女に姿を変えた りんり は、ちらりとギャラリーを見た。


「…。まだ微妙だと思う」

「そんな事を言ってないで、蜂を何とかしてくれ、来るぞ」

「大丈夫。レッドビーなら任せて」


 りんりは戦扇を広げ、口元に持っていく。口元に当てるのではなく、横にして、ギャラリーに口が見えないようにも見えた。


『戦意喪失/レベル2』


 りんりの戦扇の先から青い霧が大きく広がり、レッドビーの大軍を1匹残らず包み込む。

 青い霧に包まれた蜂たちは、ぶーんと羽音を立てたまま飛び続けていたが移動をやめた。りんりが近づいても威嚇や襲う様子も見られない。


「はいはい、皆、この転送キューブに触れて元の世界に帰ってね…にしても多い。

 そこの来池河 静馬君。手伝ってよ」

「え? 俺が…それって」

「早く。このままチマチマやってたら、昼休みなんてあっという間に終わって、5時間目、2人そろって遅刻になるからね」

「えー」


 戸惑う来池河 静馬に、燐里の保護者 針田は、こっそり近づくとリコーダーサイズの棒をポンと肩に当てる。


「偉大なる魔王族の欠片よ。耳を傾けよ『呼応』 」


 右肩甲が黒く光り、触れている棒に移動してから、

黒く光る霧となって少年を包み込んだ。

 サラサラストレートの黒髪に、ミニスカートだが、黒を基調としながら要所要所にゴールドのリボンが上品に飾るドレスを着た、お姉様系統の魔法少女が再び現れる。


「うぇっ、やっぱり、女の格好になっている」

「諦めろ。そして開き直れ

来池河 静馬」

「無理」

「大丈夫、誰も見てはいないから。ちゃちゃっと片付けちゃおう」

「欠片があるから、転送も一瞬で済むんじゃないのか」

「あ、そうだ。来池河 静馬」

「フルネームはやめてくれ。静馬でいい」

「じゃあ、静馬。頭の中でレッドビーの群れ魔界に帰るイメージしながら棒を向けて『転送』と言って」

「わかった」


 変なデザインが刻み込まれた棒を受け取り、静馬は棒を蜂の群れに向けて目を閉じる。


『転送』


 右肩が黒く光り、それが棒の先に移動してから、蜂の群れに灰色の霧が一気に広がった。

 広がり蜂の群れを包む。


「あれ?」


 ついでにりんりも包んで。


 霧は数秒で消滅し、蜂とりんりは姿を消した。


「………。えーっとハリネズミさん」

針田はりだでいい。どうやら、魔法の威力が大きすぎたようだ。さすがは、魔王族の欠片だけある」


 針田の呑気な笑いが、屋上に広がった。





「まさか、私まで魔界に強制移動させられるとはね」


 りんりが人間世界に戻ってきたのは、日が暮れてからだった。

 変身を解いた静馬が『具合が悪くなかった』と、教師に報告し、午後の授業は終了。

 翌日の昼休みに3人は顔を合わせ、報告と反省会となった。


「ごめん、賀手がでさん」

燐里りんりでいいよ。

 静馬が謝ることはないわよ。欠片の力が強すぎるだけで」


 昨日と変わらずに野菜ジュースで喉を潤してから、燐里はタマゴサンドをほおばる。


「それで燐里。

 聞きたい事が山のようにある」

「うん、こっちも話さなければならない事が山のようにあるよ。

 さて、何から話そうか」

「順を追って話すべきだろう。昔話から始まるがな」


 しっとり海苔タイプの鮭のおにぎりを小さな手で持つハリネズミに、静馬はもっと観察したかったが、燐里の話に耳と意識を集中した。


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