魔法少女を始めたけれども、何が可笑しい

楠木あいら

第1-1話謎の転校生を準備する

「突然、現れた謎の美少女が翌日、転校生として隣の席についた…1度はやってみたいシチュエーションだけれども」


 賀手 燐里がで りんりは、ため息をついた。


「何で準備を手動しなければならないの?」


 放課後を少し過ぎた高等学校の校舎。燐里は廊下を、机とその上に逆さにした椅子をセットにして運ぶ。


針田はりだ本当に、人避け魔法かけてる? 転校生が自ら机を運んでいる所を見られたら、謎の転校生の意味がないんだよ」


 逆さにした椅子の上で背を向けて座るハリネズミ…みたいな生物、針田は、背を向けたまま、返答した。

 燐里の相棒で、人間界での保護者になる。


「何もしていない。そもそも人払いの魔法は持っていない」

「うそ、じゃあ。かかってない。まずい」


 燐里は机を置くと、慌ててポケットからスマホを取り出し『ちょこっと魔法』という魔方陣のアイコンがついたアプリを起動する。


「人払いの魔法レベル3…5分効果で1回、800デン…かぁ、仕方がない」


 『購入』ボタンを押すと、スマホから半径1メートルにうっすらと黒い煙が現れたが、数秒とたたず消滅した。


「経費で落ちるよね」

「今回の作戦がうまくいけばな」


 再び明日から使用する机と椅子、それから相棒も含めて運送を開始する。


「ターゲットから欠片を見つけて、回収するのが今回の目的。

 人間界だから、上司の権力を使って、スピーディかつ強引にできないなんて」

「魔界から離れている分、自由な上に無理も利く」

「まあね。それはそうと針田、何しているの?」

「燐里の転入の書類だよ。魔法で情報操作するが、こういう小細工も必要だからな」

「ふうん。それはそうと針田。どうするの?」

「何が?」

「謎の美少女転校生でターゲットと再会するには、ちょっと物騒な出会いが必要なんだよ」

「そうだったな。その前に自分で『美少女』っと言って恥ずかしくないか」

「…うるさいわね。

 針田、演出は任しとけって言ったじゃない」

「あぁ…そうだな、ちょっと待ってろ…よし、出来た」


 針田は小さすぎる手で大きな書類を持ち上げ、不備はないか確認してから、制服を着た黒髪の少女を見上げる。


「球体の入れ物から召喚モンスターを出して、ターゲットをビビらす予定だったが…」

「その設定まずくない?」


 針田は燐里のツッコミをスルーして、書類を椅子の上に置いてから、近くの窓に跳び上がり鍵を開ける。


「もう、予定外の魔生物がターゲットを襲おうとしている」

「それ、早く言って」


 燐里は机を置くと、再びスマホを取り出しアプリを起動させマイページに移動する。


「ええっと、どこだ、変身の魔法、魔法」

「一番上に移動しとけって、あれほど言ったろ」

「今さら言ったって遅い、あぁ、あった」


 燐里は『変身レベル5(無期限/購入済) 』のボタンをタップし、魔法を発動させた。

 スマホから現れた黒い煙が、今度は燐里だけを包んだ。

 煙が消えるのと同時に燐里は窓を開けて、2階から飛び降りる。


「勝手な事は、させない」


 1階から飛び降りるように難なく着地した少女は黒髪から金髪に、制服から黒を基調とした魔法少女らしいフリルのついたミニスカートとロングブーツの組み合わせの衣装に変わっていた。

 背中には手の小さなコウモリ系の翼と、矢印のような尻尾がついており、正当派の魔法少女ではないと一目で表している。


「闇が生み出した奇跡の鱗。魔法少女りんり…って、いない、誰もいない」

「魔法少女りんり。人払いの魔法、かけたの忘れているだろう」


 辺りをきょろきょろする 魔法少女りんり に、あきれ顔の針田はゆっくりと舞い降りながら、状況を説明してくれた。


「お前さんが着地したのと同時に、人間とモンスターは走り去っていった」

「えー、そんなぁ」

「ターゲットに『追跡』の魔法かけたから、追うぞ」


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