私たち、結婚します

佐藤来世

私たち、結婚します

第1話 私、結婚します①

 店員の威勢のいい声が店内に響く。客たちは楽しそうに酒を楽しんでいる。今日は華の金曜日だ。ここにいる客たちは今日までの疲れを酒と料理で癒している。

「カンパーイ! 」

 高橋まさみと戸山晴人はビールジョッキをコツンと当てた。まさみは勢いよくビールをごくごくと胃の中に収めていく。彼女の顔には幸せな顔をしている。

「お前は美味しそうにビールを飲むなぁ」

 晴人は呆れたような表情で煙草の煙を吐き出した。

「だって美味しいんだもん。それに今日は華の金曜日だよ。明日は休みだ仕事もない」

 まさみはSMAPの「SHAKE」の冒頭を歌い出した。

「お前声デカイって」

 晴人のツッコミもまさみには届いていない。まさみは嬉しそうに鳥の唐揚げに箸を伸ばした。

 まさみと晴人は大学時代にゼミで出会った。ゼミの教授は酒が好きで授業が終わると毎回ゼミ生を集めて飲み会を開いていた。その中にまさみと晴人がいた。まさみと晴人は大学生の頃から酒を飲むことが好きで、ほぼその飲み会に参加していた。大学時代の友人とは疎遠になり連絡が取り合わないこともあるが、妙に馬のあった二人は今でもよく居酒屋で酒を酌み交わしている。

「まさかお前が院長夫人になるとはな……」

 晴人は感慨深げに呟いた。まさみの左手の小指にはキラリと輝くものが嵌められている。

「今後はそんな気安く私と喋れなくなっちゃうね」

「うるせー。デカ女」

「うるさい。チビ」

 まさみは女性では珍しく一七〇センチメートルあり、晴人からよく身長のことでからかわれている。一方の晴人の身長は一六五センチメートルしかないので、まさみからもよく身長のことで冷やかされている。昔からこのやり取りをしていたので、ゼミ生は二人をふざけて夫婦喧嘩と呼んでいた。

「結婚式には呼んであげるからね」

「なんで上から目線なんだよ」

「私の方が大きいからね」

「マジでうるせー」

 晴人は憎々しげな目で煙草の煙を吐き出した。まさみは楽しそうにビールを飲み干した。

「そっちこそ彼女はどうなの? 」

「いないけど」

「顔はいいんだけど晴人は彼女と長続きしないよね」

 まさみは顔はいいんだけどを強調して言った。晴人はまさみの言葉を無視してビールを煽った。

「今は好きな人はいないの? 」

「さあな」

「つまらないの。それより仕事は順調? 」

「まあまあ」

「晴人が仕事を辞めて古着屋を開くって聞いた時はびっくりしたな」

「まあ夢だったからな」

 晴人は大学卒業後に精密機器の営業として三年働いていた。しかし晴人は昔から古着が好きで、古着屋を開くために会社を辞めたのだ。それなりに成績も収めていてこのまま勤めれば大きなポジションも待っていたのに、それをあっさりと晴人は捨てたのだ。晴人の家族や友人は落胆したが、まさみはその決断が晴人らしいと思った。

「俺の話はどうでもいいんだよ。高橋の家族と彼氏はいつ挨拶するの? 」

「日曜日。それで来週の土曜日に向こうの家族と挨拶する」

「上手くいくといいな」

「ありがとう」

 晴人の言葉にまさみは微笑んだ。


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