第30話 河州攻略

 …須々木を三振に仕留めた球雄は、続く二番打者も変化球で内野ゴロに打ち取り、スリーアウトとした。


 …3回の裏、東葛学園の攻撃は打順良く一番の根張からだ。

 最初の打席では河州の術中にはまり、シンカーを打たされアウトになったが、2点リードのこの打席では余裕を持って臨むことが出来た。

 根張は内外角に投げ分ける河州のボールをしっかりと見極めつつ、2ボール1ストライクからの4球目、外角ストレートをセンター前に弾き返した。

 …続く二番、左打席に入った小栗は、バントの構えを見せながら2球見送り、1ボール1ストライクの後、監督のヒットエンドランのサインに応えて例のシンカーを三遊間に打ち返してヒットにした。

 これで無死一塁三塁、マウンドの河州が顔を曇らせて額の汗を腕で拭う。

 …(浦安東京学院は、須々木の足を活かして先制し、追う相手打線を河州の変化球であしらいながら打ち取って自軍ペースに持ち込むパターンで勝って来たチームだ ! …そいつを崩されたら、逆にもうこっちの一方的な勝ちだな!)

 球雄は冷静に心中で呟いた。

 …続く三番中尾は河州の2球目をセンター前にタイムリーヒット。

 1点追加した無死一、二塁から四番都橋は2球目を意表つくバント、うまく一塁側に転がして1死二、三塁。

 五番沖本はバットを振らず、じっくりと球を見極めフォアボールを選び、1死満塁。

 …そして六番義田に代わった金二郎は初球、外角へストライクを取りに来たスライダーが高めに甘く入って来たのを見逃さず、フルスイングして捉えた。

 鋭い打球音とともにボールは左中間を深々と破ってフェンスに達した。

 味方ベンチとスタンドから大歓声が上がり、次々と走者がホームベースへ帰る中で河州が本塁カバーに走ったが、走者3人が次々とベースを駆け抜け、打った金二郎が三塁ベースにスライディングしてセーフになると、河州は両膝に手をつき、ガックリとうなだれた。


 結局ここで河州は降板、二番手に左投げの二年生投手が出て、続く七番打者にヒットを打たれてさらに点を追加されながらも後続を断って何とかスリーアウトにしたが、3回を終わって8対1という展開となった。


 …4回の表、浦安東京学院の攻撃を球雄は三者凡退に抑えると、その裏東葛学園はまた一番打者からの打順で2点を取った。これで10対1。

 …5回の表、球雄は一死を取った後、七番打者にレフト前へヒットを打たれた。

 しかし慌てること無く八番打者に変化球を打たせてショートゴロ、これで併殺かと思われたが、遊撃手が捕球直前でイレギュラーバウンド。…アウトは取れずに1死一塁ニ塁のピンチ。

 …九番打者は球雄の初球を打って来た。走者は走っていて、要するにエンドランをかけていたが打球は詰まった三塁前へのゴロになり、サードが一塁へ送球してアウト。…走者は進塁して2死二、三塁。

 そして打順がトップに返って須々木がバットを持って打席に向かう。

「えっ !? 」

 …しかし捕手金二郎は思わず声を上げた。

 左打者の須々木が、何と右打席に入ったのだ。

(両打ち?…まさかな ! …しかし、初球は様子を見るか…)

 金二郎が初球、外角スライダーのサインを送ると、マウンドの球雄が不機嫌そうに首を振った。

(何?…じゃあやっぱりまた魔球からか !?… )

 金二郎がサインを出し直すと、球雄は頷いてセットポジションに入った。

 金二郎がインコースに構え、球雄が初球を投げた。…ボールは須々木の顔面に向かって行き、須々木は慌てて後ろに倒れ込んでよけるが、途中から斜めに落ちたボールはキャッチャーミットにキッチリと収まった。

「ストライ~ク!」

 …再び呆然とする須々木に、金二郎は、

「右打席でも消える魔球っス!」

 と呟くように言ってマウンドにボールを返した。

 …球雄が2球目のセットポジションに入ると、須々木は打席での立ち位置を少し後ろに移動させ、ベースから距離をとった。

「!!…」

 球雄はクイックで投げると、マウンドを駆け降りてダッシュした。…ボールは外角へ曲がるスライダー。須々木は一塁方向へ駆け出すようにセーフティバントを見せ、バットを伸ばして当てに行った。「コツン !」と弾かれた打球は一塁側へ転がり、球雄は左手を懸命に伸ばしてグラブで球を拾うと、身体を一回転させて一塁へ送球、間一髪アウトにして5回の表を0点に抑えた。

「…お前、須々木がセーフティバント狙ってるって分かってたのか?」

 ベンチに戻って金二郎に訊かれ、球雄はさらりと答えた。

「魔球にビビって下がったフリしただろ?…ありゃあ次の球が外に来たら走りながら当てて足で塁に出ようって魂胆だからさ…」


 …結局5回の裏に東葛学園は2点を入れ、試合をコールド勝ちとした。


(…後はいよいよあの八千代吉田学園の新野だな !! …)

 球雄の胸に新たな興奮と闘志がこみ上げていた。








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