第24話 新たにマークすべき選手!

 …県内で各校の対戦が進む中、優勝争いに絡んで来そうな高校の、そのまたチームのカギとなる選手のチェックをしていたのは、球雄の父親の球一朗だった。

 …球雄は2回戦を終えた翌日、球一朗と一緒に八千代吉田学園対S大付属松戸高の試合を見に行った。

 正確に言えば、八千代吉田学園の四番打者、新野助清の打撃を見に行ったのだ。

 新野は第一打席でスリーランホームランを打ち、試合は一方的に八千代吉田学園の勝利、結果としてただもう新野の打撃の凄さが目立っただけで終わった。

「インコースを引っ張らせてはダメだな…」

 球雄の感想もただその程度で、視察の成果もほとんど無く終わった。

 …いずれにしても、間違い無く新野を擁する八千代吉田学園は決勝に進出して来ると、球雄も球一朗も予想せざるを得なかった。


 …東葛学園高校の3回戦の相手は、蘇我臨海高校…試合は国府台球場で行われたが、7対1で東葛学園が勝利した。

 球雄は2イニングを1安打無失点に抑え、危なげ無い勝ち方で次戦へと進んだ。


 試合を終えて家に帰ると、球一朗が待ち構えていたかのように、唐突に球雄に話しかけて来た。

「球雄!浦安東京学院の須々木尚広(すすきたかひろ) という選手をチェックしろ!…お前のところとおそらく5回戦で当たる相手だ !! 」

「須々木、尚広?…」

 初めて聞く名前に球雄が戸惑いを見せると、

「2年生になってこの夏からレギュラーを取った選手だ!…右投げ左打ち、バットコントロールが上手い ! さらに最大の特徴はその俊足だ !! 出塁を許せば、まず間違い無く二盗、三盗と仕掛けてくる…厄介だぞ!…」

 球一朗が言った。

「…なるほど、だけど俺も試合日程が混んで来てるし、そいつの視察に行けるかどうか…」

 球雄がそう言いかけると、

「…チバテレビで浦安東京学院の試合中継があったから、録画してある!」

 球一朗が応えて、リビングでテレビの録画を回した。

 …画面には、一回の表、浦安東京学院の攻撃の映像が出て来た。

「一番、センター、須々木君!」

 場内アナウンスを受け、さっそくその須々木選手が左打席に入る。

「172センチ、66キロくらいか !?…」

 球一朗が映像を見て言った。

 打席での構え方は、至って普通の自然体…バットを揺らすようなことも無く、これと言った特徴も無かった。

「プレイボール!」

 球審が右手を上げ、ピッチャーが振りかぶる。

 初球はアウトコースへのストレート。

 須々木選手はいきなりバットを出したが、やや高いバウンドで三遊間へのゴロになった。

 三塁手が手を伸ばしたが届かず、遊撃手が回り込んで捕って一塁へ送球した。…平凡な内野ゴロだった。

 しかし、須々木はそれより一瞬速くベースを駆け抜けていた。

「セーフ !! 」

 塁審のコールに浦安東京学院ベンチと、スタンドから「おお~っ !! 」と驚きの声が上がる。

 …2番打者が左打席に入ると、さっそく須々木は一塁ベースを離れ、大きくリードをとった。

 相手チームのピッチャーは右投げなので、背中越しにランナーを警戒しながらセットポジションに入る。

 そして一塁へ牽制球を投げた!

 須々木は頭からベースに飛び込むように戻り、セーフ。

 一塁手がピッチャーに返球すると、再び大きくリードをとる。

 またクイックで牽制球が来た!

 須々木は再度ダイビングで帰塁する。間一髪セーフ!

「…そうとう警戒してるな ! …まぁあの足を見せられりゃ~ね!」

 球雄が呟いた。

 …ピッチャーがまたセットに入る。

 須々木リードをとる。

 一塁手がベースに付いて牽制球を受ける態勢をとる。

 ピッチャーの左足が上がった!

 須々木はもう二塁へのスタートを切っていた。

 ピッチャーの初球はアウトコース高めのストレート。

 バッターは打ちに行くフリをして上体を外角へ倒したが、バットは振らない。

 キャッチャーが捕球して必死に二塁にボールを投げる!

 須々木は二塁にスライディング、 遊撃手がボールを受けてタッチに行ったが、足の方が早くセーフとなった。

「おお~っ !! 」

 再びベンチとスタンドから歓声が上がる。

「右肘だ!」

 …球雄が叫んだ。

「このピッチャー、セットから牽制球の時は直前に右肘が外に開く!…打者に投げる時は逆に右肘が閉まる…須々木はもう見破ってるね!」

 球雄の指摘に、球一朗は思わずニヤリと笑みを浮かべていた。

 …無死二塁、打者へのカウントがワンボールナッシングとなり、二番打者はバントの構えを取った。

 ピッチャーがセットに入り、2球目を投げた時、須々木は三塁に向かってスタートしていた。

 投球は外角低めへのストレート、今度は打者が振り遅れ気味にバットを強振、しかしボールの上を空振りしていた。

 キャッチャーが三塁へ送球したが、またも須々木の足が早く、タッチに行くもセーフとなった。

 …これで試合開始後、ピッチャーが三球投げる間に、状況は無死三塁、打者のカウントはワンボールワンストライクだ。

 …そしてバッターはまたもバントの構えを見せていた。







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