もし、この後、遭難したら

 祖母と同居していたせいもあって、それに加えて父の教育方針もあったと思うのですが、わたしに食べ物の好き嫌いはありません。


 お茶碗にご飯粒を一粒でも残すと怒られましたし、魚の綺麗な食べ方や箸の持ち方、なども厳しく言われましたが、感謝しています。


 嫌いなものがないというのは、実は有難い。

 だって何を食べても美味しいんですもん、幸せを感じる数が多くなります。


 味音痴なんだろうと言うなかれ。


 父の口癖は

「これを食べなくて、その後で遭難したら、お腹が空いた時に、嗚呼!あの時、食べておけばよかったと後悔するぞー」

 でした。


 真理だ!と幼いわたしは感銘を受けたわけです。


 小学生の時に○○自然の家で合宿という学校行事がありました。


 そこで出たのが、カレーライス。

 それが、カレー粉を水で溶いたのに塩少々を入れて温めただけ?というほど不味かった。


 いやもう何でも美味しく頂けるわたしすら、こ、これは!と思うほど酷かった。

 級友達は、みんな一口食べてスプーンを置いてしまった。

 頑張って五口くらいは食べていた先生もついにスプーンを置いた。


 そんな中、なんと完食した勇者が・・・

 わたしです。

 わたしだって流石に美味しいとは思えなかった。

 けれど父の言葉が頭に響いていたのです。

「この後で、もしも遭難したら・・・遭難・・・そうなん・・・」

 気がついたら完食しておりました。


 級友たちからは半分呆れられ、先生からすらちょっとビックリされ・・・

 日頃、目立つ事とは無縁のわたしは身を縮めたものです。


 しかーし、その後、みんなはお腹を空かせてブツブツ。眠れない人、続出。


 そんな中で瞼を重たくしたわたしは、父の教えを噛み締めておりました。

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