第14話

「昨日さ、渚と一緒に隣街の図書館行ってきたんだけど」




「はあ?なにい!詳しく話せよ!」




「絡みついてくるな!触るな!」




「渚から夜連絡来て来たよー!渚がね」




「京子!余計な事言わなくていいから!」




「聞かせろよ京子!かーっ!二人でいちゃいちゃしてたんか?してたんか!」




「泣くな!鬱陶しい!」




昨日の顛末を話しながら歩く、学校下の坂道。今日は快晴で、まさしく小春日和という言葉が相応しい。


今日の実習は午前中丸々時間が使え、資料集めにと取り合えず近場の郷土資料館に向かい、その足で港の祠にも。


町の図書館には学校を出てくる前に連絡をして、来週書庫を開けてもらえるよう手筈を整えた。




「色々面白い店とかみつけたから、また四人で行こうね?」




「渚は航と違って優しいなあ」




「違う、俺はお前に厳しいだけだ」




「尚悪いわ!」




「いいねー、私も部活さぼってついてく!」




「やっぱ部活休みないの?」




「いや、もうソフトボールはオフシーズンに入ったから全然暇!」




「じゃあさ、早速来週行こうよ!私もお休み貰うし」




「俺も父さんに聞いとくわ。まあ、拓海は勿論暇だよな」




「何だよ勿論って!暇だけど!」




「私も土曜の午後からなら行けるよ!カラオケ行こうよカラオケ!」




拓海も京子も遊びに行くことを快諾をし、四人で賑やかに郷土資料館まで続く住宅街を歩く。


学校から歩いて二十分程の位置に目的地はあり、この地域一帯の民族文化資料が集められている。


近隣には貝塚や古墳も有るようで、古くからこの地に根付いて人々が営みを築いていた様だ。


小学校の時に授業で訪れたこともある。


あの時はプチ遠足気分で、拓海とはしゃぎ回って当時の担任に怒られたことを思い出す。


またこうやって道を歩いてるだけで、懐かしい思い出が蘇る。




「けど、図書館行って何か分かったことあるの?」




「いや、やっぱり地域限定の話ってのは無かったよ。やっぱり民話とか調べないと駄目だな」




そう京子に尋ねられ、昨日読んだ本の内容を掻い摘んで話す。


と言っても、色々な神が居るということしかわからなかったのだが。




「そんなにうまくいかねーわな」




「そもそもこの町でよく聞く話って程度だからな。もっと立派な神社だったりしたら色々出てくるかもしれないけどな。けどこの編の商業組合で管理してるから結構奇麗だとは思う」




「そうそう、家もたまに当番で掃除に行くし。それと昨日お父さんから聞いたんだけどね、近所のおばあちゃんなんか、毎日お供え物変えに行ってるらしいよ。流石に何でかは知らないって」




その発言の後、渚が父から聞いた話を続けた。


商業組合と言っても、それほど商業施設がある訳では無いので規模は小さい。


それでも、海に係る仕事の従事者の数が多く、地域奉仕活動の一環ではあるが祠の手入れをして貢献しようという活動らしい。


しかし、毎日お供え物をしている人がいるというのもあの祠の神はもしかしたらご利益でもあるのかと理由が気になるところだ。




「渚の家はお魚屋さんだもんね。私の家も拓海のとこも一般家庭だからあんま縁が無いのかも」




「あー、確かにな。漁協では何かしてないの?」




「同じように手入れしてるよ。後年始に豊漁祈願のお祈りするくらいかな。祠に皆でお参りした後にお神酒を撒くんだ。後漁協も毎日お供え物変えてるよ」




やはり、海に生きるものとして、お世話になっている神を無碍にするわけには行かない。


実際のご利益が等ではなく意識の問題だ。


それだけこの海に誇りを持っているということを行動で示していると航は考えていた。




「あーやっと着いた。アポとってあるんだっけ?」




「うん。さっき電話しておいたよ!えーっと、館長の名前は岬さん」




拓海の質問に渚がそう言うと手帳を開き、確認すようにそう呟いた。




「まあ取り合えず受付行ってみようよ」




そういう京子はの後に続いて、郷土資料館の入り口をくぐる。


アポイントメントの電話をした渚が、入口右手の受付の小窓に顔を寄せ、そこにいる事務員の女性に先ほど連絡をした旨を伝えた。


そうすると、女性は席を立ち部屋の奥の方に行き、小窓から男性の返事が聞こえた。




「どんな人かな」




そう緊張の面持ちで呟く渚の言葉に、京子が耳元で囁いた。




「わたるー?渚がほかの男の事で緊張してるぞー?」




「はあ?意味わかんないこと言うな」




「何か航の顔が一瞬で赤くなったぞ」




出先で暴れるわけにも行かないので、照れ隠しで後で覚えとけよと拓海に八つ当たり宣言をしたところで、事務室の横の廊下からガチャリと扉が開き、優しそうなお父さんといった感じの、初老の男性が笑顔でこちらに革靴を鳴らしながら向かっていた




「やあ待たせたね、先ほど電話してくれたのはお嬢さんかな?私はここの館長をさせてもらってる岬とい言うものです」




館長の自己紹介の後、緊張で固まっていた渚が口を開いた。




「初めまして!先ほど電話させて頂いた鳴海高校二年の白石渚です。今日はよろしくお願いします!」




その言葉に続き、三人も自己紹介をしていく。


その間も岬は笑顔を絶やさず、こちらの拙い挨拶に相槌をうち丁寧に話を聞いていた。




「今日は突然でしたが、ありがとうございます」




「いやいや、全然!今日はこの地域に伝わる神様の話を調べたかったんだよね?少ないけど、ぱっと目についた民話集を拾ってきたから、そっちを案内しよう」




そういうと岬は事務所よりさらに奥の部屋に案内をした。


途中、事務所の向かい側の部屋に、機織り器や、昔の農耕器具などが展示してある部屋も確認できた。




「すまないね、明日急にお偉いさんがここに来るとかでちょっと書類を用意しないといけないんだ。また読み終わったりしたら受付のお姉さんに言ってくれればいいからね。ろくに話も出来ず申し訳ない」




「そうだったんですね、忙しいところ申し訳ありません」




「いやいや!若い子がここを頼ってくれるなんて少ないからね!あ、後隣の資料室も勝手に見てって良いからね!」




どうやら本当に忙しいみたいで、祖茂その台詞の後、すぐに部屋を後にしてしまった。


実習の時間も限られているので、持ってきたノートを広げ民話集を読み進めることにした。

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