死に寄り添う悪食(6)


薄暗い部屋の中で、目を覚ました。

ぼんやりした視界の中、正面に人影。


よく見ようと身体を動かそうとしたが動かない。紐のような何かで縛られている。


そうか、車内で携帯が震えたせいで乗り込んだのがバレたんだったな。


その後1/4錠の薬飲まされて……それが最後の記憶。


西野くらい武闘派だったら……くそ。意識飛ぶのも最近多くないですか運命よ。そして凍死する程寒い。


自分の現状を把握するまでは騒がない方が良いと判断した。


場所は部屋の隅、明かりは中央付近の小さい電気のみ、出口は反対側か。


窓があるということは地下ではないだろう。


外は暗い、気を失ってからそこまで時間は経っていないか。


それとも相当寝ていたか。木造であろう建物で、元廃墟をある程度片付けたみたいな感じだな。


そして俺はというと椅子に縛り付けられてる事と、私物は持ってかれてる。というか全裸だ。


ダメだ状況を把握出来ても、ここはどこだしか出てこねぇ。

後服返せ寒さで死ぬ。


幸い口は塞がれていない、って事は周りに人が居るような場所ではないんだろう。塞ぐ必要がないような場所。


そして極め付けは、でかい人影が背を向けて何かの作業に夢中だという事だ。


潤った粘膜を弄ってる系の音が永遠に聞こえてんのが怖すぎる。過酷極まってんな。


すまない麟ちゃん、帰してあげられなくて。


「せめて朝倉さんだけでも生きて帰って」聞こえない程小さな声で漏らした声に、返答が来た。


「私は出会った時から死んでるんだけどね、西野さん絶対呼んでくるから待ってて」そう言って霞んだ笑顔は消えた。


麟ちゃん。思わず叫んでしまった。ヤバい気付かれた。


「あらお目覚め、朝倉日暈くん」振り向きもせず、男が無理矢理作った女の声で呼ばれた。財布の身分証見られたか。


「今女の子と遊んでるの、後であなたとも遊んであげるわ」あいつの遊びは危険すぎる。


付き合ってたら身体一つじゃ足りない、麟ちゃん急いでくれ。


自分の命に対する執着心なんか、とうの昔に捨てたはずなのに。死に方は選びたいんだな。


グチャグチャと響き渡る音は少しづつ心を削り取って行く。


それでも人なのか、今目の前で起きてる事は人がやってる事なのか。あれは人間か。


何故そんなに酷い事が出来る。肉体は死んでいても、心は、魂は未だに苦しんでいる。


その顔を知らなければなんでもいいのか。

ただ家に帰りたいという事さえ叶わない。


こんな世界が許されて良いわけねぇ。

あんな顔させたあげく救われようとしている自分にも腹が立つ。


俺の中にある認識は、次第にあれを人でないモノと判断し始めた。


今グチャグチャやってるあれは人間ではない。人間の姿をした化け物だと。


縛られて動けないのに、膨らむ憎悪。殺される恐怖を通り越した先に、自分に対する免罪符を。「人じゃなければ殺してもいい」と



今すぐにこの縄を解け、そしてお前を殺す。



振り返った大男の口元からは色の付いた液体が滴っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る