Chapter05:バイバイ!



「……!」


「……」


「……、」



 その場は、まさに一触即発。

 二人の魔法少女、そして一匹のサメを携えた少女が睨み合う。


「!」


「させっか」


 魔法少女ハンター・リディアの構えようとしたライフルが、ディープ・ブルーのサメのしっぽの一撃で叩き落される。


「ぐっ……!」


 だから厄介なんだ、『最強の武器』なんだ。


 それが、『見えない角度』、『遠すぎる距離』『分かんないタイミング』で撃たれる狙撃は、私達でも防げない。


 しかもそれが、まともな防御を貫通してくるなら尚更、さぁ?」


「だからどうした人間!!」


 再び構えようとしたライフル型ステッキを、今度は別の角度からやってきたサレナの体当たりシールドバッシュによって弾かれる。


「つまりは、弾丸は速いが、、ないのか?」


「ご明察、サレナちゃん」


「つまりは……ボク達でも対処できるグル……!」


「そうだモグルー。

 近づけば大した事じゃあないんだ!

 近づきさえすれば……!!」


 舌打ちとともに後ろへ飛んだリディア。

 だが、それをディープ・ブルーは予想して弾く。


「ガッ……!」


「下手な事は考えんなよ、魔法少女ちゃん!?

 私のディープ・ブルーは思念を嗅ぎとる!!」


《心が完全に読める訳じゃあないが、どっちにいくぐらいは予想が着くぜお嬢ちゃぁん??》


 にぃ、とディープ・ブルーと同じくギザギザした歯を覗かせて笑う亜希。


「観念しろリディア!

 お前が優秀なハンターだろうと、近づかれた時点で終わりだ!!」


 そして、サレナはその魔法少女としての名にふさわしい、縦のようなステッキを構えて宣言する。




「ッ!!」


 だが、ハンターリディアの目には、まだ闘争心が見えた。


「図に乗るな!!

 これしきのぉ……!!」


 瞬間、リディアの手が懐に潜り込む。


「これしきの危機をぉ!!

 ァ━━━ッ!!」


 彼女が取り出したもの。

 それはスプレー缶ににたもの。

 表面に、『STAN-G』と書かれたもの。


「何!?」


「嫌なんでもってんだそんなん!?」


 ピンを抜かれて投げられる。


「しまっ……!」


「目じゃない、耳を塞げ!!」



 ピィンッ!!


 凄まじい閃光と高周波が、辺りを包む。

 二人が目と耳を塞いだ瞬間に、リディアはビルから飛び上がった。



「近づかれたのは誤算だが、まだだ!

 まだ仕切り直せる……!!」


 そして、離れた位置のビルへとその足を着地し━━━━





「聞いてなかったのかよ……!」




 その瞬間、着地するはずの地面から出てくる、巨大な口。


「な……!!」


 次の瞬間には、


「何ぃ━━━━━━ッ!?!」


 リディアの下半身は、すっぽりとサメの口の中に収まっていた。




「ディープ・ブルーは、!!


 目くらましになると……!」


 ザッ、と高周波の影響で痛む頭を抑え、一歩前に出る亜希。



「ガッ……あ、あぁぁぁっ……!?」


 サメの歯は、かつて銛に使われたほど鋭い。

 その咬合力は、一般に300kgと言われており、ディープ・ブルーもおおよそその程度の力で下半身に噛み付いている。




「怯むと、思うのかよぉ……!?


 こんなんでも、場数踏んでるんだぞ、こっちもなぁッ!!!」




 ミシッ、メキメキィ!!!




「ギャァァァァ……!!!あ、アァァァ……!!」



 ディープ・ブルーが、顎に力を込める。

 そして、サメ特有の行動である、首を左右に振ってより歯を食い込ませ始める。



「ガァァァァァ……!?」


「……バイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイィィィッッ!!!


 バイィィト噛み砕けッッ!!」



「ギャァァァァァァァァッッ!!!!」



 ブシュウ、と血が吹き出し、そのサメそのものの凶悪な口を血に染めていく。






「━━━バイバイ」





 瞬間、グチャリッ、と音を立てて離れる上半身。


 ショックで見開いた目のまま、その上半身は放物線を描いてこっちへ戻ってくる。


 どさりっ


「ガッ……ハ……!!」


 もはや、傷口は見ていられないような状態になった魔法少女が一人、驚愕と疑問符で埋め尽くされた顔で天を仰ぐ。


「…………ウエッ!!

 自分でやっておいて、やり過ぎたわ……!!グロい……!!」


 それを見下ろしながら、亜希はそう口を押さえて言う。




 その様子を見ていたサレナは、思わずツバを飲み込む。



(なんだこの少女は……?

 場慣れしすぎている……!!


 私が、何もできないほどに……!

 余りにも『慣れている』と言うべき的確かつ迅速な戦い方だ……!!)



 恐ろしいのは、この短い戦闘で敵を撃破した彼女━━━亜希は、


 この、上半身だけになったリディアを目の前にしても、「おえー」などと言うまるで車に引かれた猫を見るような様子しか見せていないことだ。


 そう、慣れている。


 !!


「ゴホッ、あ、う……!」



 と、恐れおののいているうちに、なんとリディアは既に動けぬ体で無理やりステッキを掴む。


「根性ありすぎじゃん?」


 しかし、すぐ亜希の足がステッキを踏みつける。

 力を振り絞って睨むリディアに、見下ろす亜希は静かに視線を返すだけだ。


「いい加減楽になれよ。あんたがすごいのは嫌ってほどこの数十分で理解したからさ」


「…………っく…………くくくくく……!」


 しかし、やってきたのは、もはやない腹から絞り出すような笑い声。


「……名前、は……なんだ……?」


「何?冥土に自分を殺した奴の名前でも持ってく気?」


「それも……ある……!

 お前の……そしてそこのサレナの……勝ちだ……!!」


 す、と震える左手で、胸ポケットから何かを取り出す。

 ……それは、小さなロリポップキャンディー。

 包み紙を剥がし、なんとか口に運ぶ。


《……やっぱ甘党じゃあないか》


「今言うことじゃないでしょうが」


「ふっ……ふざけてはいるが……その力を解除しない……!!

 ふぅ……場慣れしているな、お前?」


「まぁね。この佐目島 亜希 15歳は、

 割と奇妙な運命があってね」


 瞬間、ニィ、と笑うリディア。




「サメシマ アキ……!!

 覚えたな……?トリィ……!!」




 と、瞬間、バタバタと音を立てて何かが飛び立つ。


 一瞬見えたその姿は、ずっとサレナといたモグルーと同じ━━━妙に可愛い謎の鳥っぽい生物。


「魔法生物!?」


「私の顔と名前……!」


「持ってった。タダでは死ぬ気は無い……!」


 そろそろ、最期が近いのか、仰向けになり虚ろな目を向ける。


「お前達の……苦しむ様を……!

 地獄で……ずっと見て……いる、ぞ……!」


 その言葉の直後、急に力が抜けたように動かなくなる。

 ……完全に事切れたようだ。


「…………なるほど、ヤバい事に巻き込まれたなぁ……これは」


「……すまない」


 いやいや、とサレナに顔を向けて亜希は言う。


「謝るより、どう言う事情かまず聞こうか」


「……そうだな。うん、君の言う通りだ」


 一瞬、悲しそうな顔を見せたサレナは、再び亜希へ顔を上げ、言葉を紡ぐ。



「改めて名乗ろう。私は、魔法少女シールダーサレナ。

 あのリディアと同じ世界から来た」


 そして、とこう続ける。





「君達の世界を、救いに来た」











        →to be continued

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