第13話 首をぐるりぐるりと回しながら……

最近は一日中眠っている私。

でも、そんな私でも、ふと眠りから掬い上げられるときがある。

ずっと眠っていたからか、それとも別の理由からか起きたばかりなのに妙に意識はくっきりしている。

時刻は決まって早朝四時過ぎから五時の間。

家族はまだ夢の中だ。


この前の土曜日もそんな日だった。四時二十分頃に目を覚ました私は、家族とマロンを起こさないよう、そろそろと着替えて玄関から外に出た。

机の上に「朝の散歩にいってきます」と一筆箋に記して置いておくのも忘れなかった。

前に無断で早朝の散歩に行って母にやんわりと叱られてから、ちゃんと手紙を残すのは約束事になっている。


朝五時。空はまだ夜の最中(さなか)のようだ。月だってくっきりと見える。

その空の暗さに私が毎日泥のように眠っている間に夏が過ぎてしまって、秋が到来しているのを改めて感じる。


さて、今日はどこに行こうかな。


早朝から営業していて電源もある、マクドナルドがある方へ向かうか、それとも……。


考えあぐねて大通りに出た。

昼ほどではないけれど、早朝も意外と交通量は多い。清掃車やトラックが目に付く。


大きな荷台がある自転車がすごいスピードで二台、私の横を掠めていった。

新聞配達だろう、とあたりをつける。


そして、大通りの交差点の方に目をやって……「それ」を見てしまった。


自転車にまたがっている、見た目は20代から30代の女性。

ただ、特筆するべきはまるで90年代のファッション誌から抜け出してきたような所謂「イケイケ」の服装をしていた。自転車も最近のものではなくママチャリのようだ。

黒い革製のタイトスカート。肩パッドの入ったコートの柄は白と黒の千鳥格子。網タイツを履いた足を自転車のサドルに載せている。紫色をした柔らかい素材のスカーフを首に巻いている。


と。


その首がぐるり、と回転した。


その回り方が尋常ではなかった。

360度。ぐるりぐるりと回る。角度もだが、その速さが凄まじい。

ロック・コンサートやヘヴィメタルのライブで見るような、激しいヘッドバンギングぐらいの速度はある。


私が目をそらすと同時に信号が青になり、彼女(?)は自転車を発進させた。


首を凄まじい速度で回転させながら、結構な速度で。

彼女は交差点を私から見ると左方向へ曲がるようにして去っていった。


彼女が去ってから数分間。私は動けずにいた。ふと、首筋に手をやると、嫌な汗をべったりとかいていた。


散歩、という気持ちも吹き飛んで、すぐに家に帰った私をマロンは「わんわんわん!」と吠えて、全力で迎えてくれた。


結果、家族を六時前に起こしてしまった私は叱られたわけだが、それでも自分が見たもののことは言わなかった。


沈黙は、金である。

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