第20話 閑話休題・アークウィザード

 博識な人ならば三世みつよがTENKAIを知らなかったことに、回転するほど首を捻るはずだ。

 TENKAI――南光坊天海が秘蔵した、徳川家康と明智光秀の血判状!

 存在するだけで大問題だし……その詳細を知るためなら、魂と引き換えでも構わない歴史学者もいるはずだ!

 しかし、この天海だが……三世みつよの生きる時代には、かなりマイナーな人物といわねばならなかった。

 『甲賀忍法帖』や『柳生忍法帖』、『魔界転生』などで有名な山田風太郎が文壇へデビューされたのが一九四七年。

 まだ三世みつよたちには一昨年のことで、伝奇ものをお手がけになられるのも『妖異金瓶梅』の一九五四年から。

 忍法帖シリーズ一作目となる『甲賀忍法帖』も、一九五九年まで待たねばならなかった。

 つまり、この時代で南光坊天海を知るものは、その筋の専門家というより他ない。


 だが、日本の不思議な宗教関係者という括りで探すと、すぐにリストアップされてくる人物でもある。

 まず業績に対して、異常なまでに前半生が謎だ。

 なんせ五十歳より前の足跡は、まるで信頼のできる情報がない。

 それでいて文献に確認される時点で、すでに徳川家康のスタッフを務めている。

 これは参謀としてのようで、なんと三代将軍まで仕え続けた。

 天海は推定で百七歳まで生きたと記録にはあるから、徳川家で五十年以上を奉公した計算となる。

 ……天下を取る寸前から、天下を取った直後にかけてをだ!

 政治家もしくは役人としても、彼の積み上げたであろう功績を推察するのは、あまりにも容易いことだ。歴史的な偉人であることは、微塵も疑いようもない。

 また、天台宗系の僧侶でありながら山王神道にも造詣が深かったそうで、日光東照宮へ家康を祀ったのは天海の差配による。

 ……あの日光東照宮をだ。

 オカルト的な観点でいえば日光東照宮は「天下を取った家康が、その権力の全てを注ぎ込んで、自らの遺骸すら呪具に見立てた霊的儀式」となる。

 定説では江戸――東京を護る結界といわれているが……その真偽を確かめる術は、もはや喪われて久しい。

 だが、もし『南光坊天海の秘蔵した何か』の情報が発見されたら、それは必ず探索されるだろう。

 あらゆるジャンルの人間が血眼になって!

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