第34話 妹は痴女?

中間テストを終えた日、俺は精魂尽き果てていた。

期間中、毎日三時間睡眠で乗り越え、出来るだけのことはやった。

たとえそれが佐倉にとって意味の無いことだとしても、今俺が出来ることはそれくらいしか無い。

「望月、打ち上げ行かないか? って、そんな気力無さそうだな」

石田が声を掛けてくれるが、俺は机に突っ伏したまま、頭だけコクコクと動かして返事する。

「大丈夫か? 何なら送るぞ?」

石田は優しいなぁ、と思いつつ、頭だけフルフルと動かして返事する。

俺は今、机とキスしてる状態だが、鼻が高かったらこんなことも出来ないんだろうなぁ、などと考える。

いや、鼻が低くてもこの状態はキツイから、俺は腕を組んで、その上に額を乗せた。

眠りに落ちそうになる意識の片隅で、遠ざかっていく石田の足音を聞き、代わりに別の足音が近付いてくることに気付く。

美旗は部活に行ったし、佐倉だろうか?

いや、確か今日は生徒会があるとか言ってたな……。

「お兄ちゃん」

なんだ、明梨か。

だったらこのまま眠らせてくれ……。

「お兄ちゃん、帰るよ」

耳元で囁かれても、それはもはや子守唄だ。

「さっき佐倉先輩に会ったよ」

まさか言い争いをしたんじゃないかと気になるが、俺は体勢を変えずに話の続きを待つ。

「お兄ちゃんが辛そうだから、送ってあげてって」

そうか……佐倉は優しいなぁ……。

「あの女狐、ついに白旗上げたのかな」

いや、違うだろ……。

「それからね、お兄ちゃん」

明梨が美旗の席に座る気配がした。

後ろ向きに座ったであろう明梨は、俺の机に頭を乗せたらしく、すぐ隣から息遣いが届いてくる。

「今朝、お兄ちゃんのMAX、見ちゃったよ」

マックスって何のことだ……。

「テント張ってるみたいで、猛々しくてビックリしちゃった。立派じゃないなんて言ってごめんね」

テント……猛々しい……立派……はっ!?

それって、俺の御子息のことじゃん!!

「きゃっ」

飛び起きた俺に驚いて、明梨が可愛らしい悲鳴を上げる。

「お前は痴女か!」

「家族だから仕方ないよぉ」

くっ、可愛い子ぶりやがって。

「寝てる兄の部屋に勝手に入ることは無いだろうが」

「だって、辞書借りたかったから。ノックもしたよ?」

くそ、怒れないではないか。

「MAXさんにもノックしたけど」

「うぉい!! 俺のジュニアに変な名前付けるんじゃねー!」

「え? そこ?」

「いや、ノックもやめろ! 暴発したらどうするんだ」

「暴発?」

汚れなき乙女のような顔をされる。

これをされると兄としては強く出られないのだ。

「今度、定規持って行っていい?」

「来るな!」

「でも、メジャーだと触らないと測れないよ?」

「だーれが定規が駄目だって話してんだよ!」

「えー」

えー、じゃねーよ。

「でもね、お兄ちゃん」

なんでコイツはこんなに前のめりなんだ。

しかも声をひそめ、まるで秘め事を話すように口に手を添える。

何を言われるのだろうかと、不本意ながらドキドキする。

「ウチにノギスは無いよ?」

「なーんやそれ!」

どんだけ精密に測る気なんだよ!

「え? ノギスっていうのはね──」

「ノギスは知ってるっつーの! 測定器の話はやめろ!」

「分度器も?」

「何を測るつもりだお前は!」

これは、きっとたぶんアレだ、好奇心旺盛な年頃の女の子ってだけで、俺の妹が変態というわけでは無いはずだ。

きっとたぶん……。

俺の眠気は一気に消し飛んで、疲れが一気にドッと出た。

それでも、帰り道で元気いっぱいの明梨を見ていると、癒されてしまうバカ兄だった。


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