同期/拍動/残像/不在

君と同期する夢を見ていた

瞼に焼き付いていたそれは万華鏡

重なり合わず触れ合わなかった僕達は

地面に落ちていた抜け殻をきっかけにして

同期した

ぶれていた輪郭が二人重なる

僕が動くと君も動き

僕が果てると君も果てた


君の拍動に触れていた

手のひらに焼き付いたそれは幸福なリズム

恋人たちがカホンを鳴らし

僕らはワルツを踊っていた

500日目の夏を越えて

二人は夏を忘れ

二人は二人を忘れ

スティックは側溝に転がった

指揮者が指揮棒を振る

オーケストラのために

その指揮台に立つあれは僕だ

同期のために僕は汗を飛ばしていた


君の残像を見ていた

景色に焼き付いたそれは陽炎

いや蜃気楼か

あの日の君だ

君は少し落ち込んだ様子で

僕の少し前を歩いていた

空を見上げると両側の桜並木がまるで西洋絵画のフレームみたいに視界を縁どった

雲がどうどうと流れていく

君の声は聞こえない

僕の耳にはただ音楽だけが流れていたから


君の不在を感じていた

生活に焼き付いたそれは蚊取り線香の灰

燃え尽きて落ち風に吹かれるクズ溜まり

あの日の君は

きっと夏の日で

きっと僕の隣にいて

きっと入道雲がもくもくと空を建築していた

きっとセミたちが二人を祝福した

脱皮した黒猫が二人の間を通り過ぎたのはきっとその時だろう

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る