異世界初日が終わったがこれからどうする 2

「想像以上に旨かった………! これが、異世界の味………悪くない」


 街中の街道を歩きながら俺は朝食で少し膨らんだ腹部を擦った。その様子を見てエリナは「うわぁ……」と、呆れと驚きの含まれた声を漏らす。


「いくら美味しかったとはいえ食べ過ぎでしょ。いったい何人分食べたか分かってんの?」


「…………二ぶ――――」

「三人分よ! まったく朝っぱらから、あんたの胃袋はどうなってんのよ! そんなに食べたいの?」


「それは沸き上がる衝動」


「えぇ……」


 朝から俺はエリナに罵倒を浴びせられていた。



《王都フルストリム中央街道》 

 見事に碁盤の目状に整備された街(全く街並みは違えど、どことなく京都のような構造だ。)の中心を東西に分けるようにして舗装された、都内でも一際賑やかで広い道、中央街道を歩いていた。


 話は遡ること一時間足らず、アルギドを含めた俺達四人は食事中今後俺の死活問題とも言える、この世界での生き方について話し合っていた。しかし結局のところアルギドの『もっと強くなっておいてほしい、それが今後泉にとっても大いに役に立つ』という謎に説得力のある一言によって冒険者として生きることになった。


 しかし今後冒険者として生きる為にはある手続きをしないといけないらしい。その手続きを受けることができる建物があるのが、この中央街道である。そこで、アルギドとルーカスを除くエリナと俺は朝食後直ぐ荷物をまとめて宿を後にしたのであった。


「ここよ」


 出発してから僅か十分あまり、少し前を歩いていたエリナは、ある木とレンガ造りの建物の前で止まった。


「へー、ここがあの『ギルド』か。いかにもって感じだな」


「そ、数多といる冒険者たちが一度は通らなければならない関所………ここで冒険者になるための試練が受けられるの。試練を突破したら冒険者の証となるギルド会員証明書が貰える」


「冒険者になるだけで試練とかあんのか」


 ほえーっと建物を見つめる間、エリナは「うん」と頷いた。


「職業柄やっぱり死人が出易いから。最初にある程度強さを見極めて検討して、もし許可がおりれば…………晴れて冒険者の仲間入りっと言うわけね」


 なるほど、確かに中途半端な奴が冒険者になって屍になって帰ってくるのは避けたいだろうしな。


「まあでも泉なら試練くらい余裕でしょ」



――――――――――――――――――――――――――――――



「はっきり言って、無理です」


 受付の女性はハキハキとした話し方でキッパリとそう言いきった。


「ちょっと待って、試練が受けられないってどういうことよ!?」


 その前でたじろぐエリナ。


「ですから、こんな意味不明なステータスの人においそれと試練を受けさせたりはできません」


 受付女はびしっと開かれた俺のステータスを指差した。


「私だってわざわざここまで足を運んでくださった貴方達を追い返したくはないです。ですが、流石にこればっかりは…………」


「じゃあギルドマスターを呼んで下さい! 直接話をつけますから」


「ですが……」


 こればっかりはどうにも、そう言おうとした受付女の言葉を遮る様に、エリナはぐいっと前へ出た。

 しかし俺はエリナの肩に手を置いて、それを制止した。

 そして今度は俺が前に出た。


「確かに俺もこのステータスの異常さから良い扱いを受けるとは最初から思ってなかった」


「でしたら―――」


「だがな」


 はぁ…とひとつため息をつく。


「一人の人間として試練を受けに来たにも関わらず、それすらさせてもらえないとは思っても見なかった」


 俺の言葉にグッと女性は押し黙った。それと同時に、周りにいた人達が「なんだ、揉め事か?」と言いながらワラワラと集まりだした。間もなく、俺達は大勢の野次馬に包囲される形になった。



「何やってんだお前ら。散れ散れ」


 しかし、そんな野次馬たちは次の瞬間受付カウンターの奥から暖簾を太い筋肉質な腕で押し上げながら登場した巨漢によってそれぞれの位置に散らされた。


「で、ノエル これはいったい全体なんの騒ぎだ? 秩序を乱すような輩はその場にいる冒険者の力を借りて追い出すことになっているだろう」


 そして男はその受付女の名前をしれっと一般公開しながらずんずんと二人に近づいてきた。


「いえ、実はこの泉竜斗さんが試練を受けたいと――――」

「それについては俺から話す」


 ノエル(?)の言葉を遮り、突如前に押しでた俺を巨漢はじっと見つめた。


「俺は冒険者志願者だ。んでもってここに知り合いに説明を受けながらやって来たわけで、いざ試練、とウキウキワクワクしながらここに立っていた。だがここの美しい女性が仰るには俺はステータスが異常過ぎるので試練が受けられないとのことだ。確かに言い分は辛いほどに分かるが、こちらとしてもこの試練を十分前に聞いてから心待ちにしてたんだ。何とか試練を受けさせてもらえないか頼んでいた――――と言うわけだ」


 説明を聞いた男は思った異常にしょうもない

案件だと思ったのか、拍子抜けしたような顔で


「そこまでいうなら受けさせてやるさ、ステータスの異常がなんだ。若い冒険者の芽を摘むほどギルドマスターとして不本意なことはない」


 と、言いながら俺の肩をバンバンと叩きなが笑った。


「ちょっ、ちょっと待って下さい。せめてステータスの閲覧だけでもしてみてください。本当に………本当に異常なんです!」


 しかし、受付女もといノエルが必死に男を止めた。


「あーべつにいいじゃないか」


「良くないです、良くないんですよほんとに! いいから一回見てください!」


 男は「えぇ…」と言いながらさもめんどくさそうに顔を歪めたが


「…………そこまでいうのなら……まあ、一回だけ見ておくか。すまないが君、ステータスの展開を頼む」


 渋々同意すると、申し訳なさそうに俺の方を向いた。


「ああ、どうぞ。別に見られて恥ずかしいもんじゃないし」


 そういうが先か、俺は再度青いウィンドウ、ステータスを展開した。


「ふむ、どれどれ」


 男はグッと顔を近づけてステータスを覗き込んだ。そして――――




「………………………………」




 止まった。


 その様子を見たエリナは「あー、まあ、そうなる気持ちはわからなくもないなー」と、苦笑いを浮かべて、男の意識が現世に戻ってくるのをまった。


 フリーズ開始から約三十秒。男の意識は帰ってきた。


「よし、それでは試練の間へ案内しよう」


 しかし、ステータスについて何かしら言及することはなく、男はナチュラルにくるっと奥の扉へと向いて進みだした。


 あ、こいつ、考えるのを諦めたな……………


 チラッとノエルの方を見ると、よくあることなのか「あ、これもうなに言ってもだめだ」とにっこりと笑いながら呟き、カウンターの引き出しを開くとバインダーのようなものに止められた一枚の紙を取り出した。


「先程は失礼致しました。こちらは始まりの試練の難易度表になっています。始まりの試練はいわゆる実践形式で、こちら側で召喚する魔物と実際に戦ってもらいます。しかし、倒すことが目的ではなく、各難易度の魔物相手に何秒耐え抜いたか、が問われます。もちろん倒しても良いのですが…………まず無理でしょう」


 ノエルの説明を聞きながら難易度表に視線を落とす。ソコには左から順番にF E D C B Aとあり、其々に相手となる魔物の特徴が載っていた。


 しかし、ここであることに気がついた。

 表の枠から外れ、紙の端の方にわざとらしく小さな文字で《S ??????》と書いてあった。恐らく大抵の人が見逃すだろう。

 ノエルの方をチラッと見ると、俺がその事に気付いたのが分かったからかニヤニヤとにやけていた。


「あの…………この端っこの方にあるSって………」


「その通り、シークレットモードです。その他の難易度とは訳が違います。めちゃくちゃ強いんです」(ニヤニヤ


 ふーん、と頷く。


「よし、Sで頼む」


 俺がそういった瞬間


「ギルドマスター! S入りましたー!」


「なにぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!?」


 そして絶叫と共にさっき男――聞く限りはギルドマスター――が入っていった扉が激しい損壊音と共に突撃によって粉砕され、土埃の奥から驚喜に満溢れた顔をしてギルドマスターが現れた。


「え、扉……」


「よくぞ言った! では早速試練の間へと行こう! レッツSランク試練!」


 ギルドマスターが大声でそういった瞬間、先程散っていった野次馬の中の十数人が盛大に飲み物や食べていたものを吹き出し、またあるものは大きくむせかえしていた。


「お、おい、どうしたんだよ急に」


 しかし中にはその反応を不思議に思い、訳が分からないと言った表情で他の人に状況を聞く者もいた。


「は? お前聞いてなかったのか? 遂にSランク挑戦者が現れたんだぞ!?」


「な、なんだよそのSランクって」


「知らないのか? お前も見ただろあの難易度表。実はあの紙の端っこの方にめっちゃちっちゃく書いてあるんだよ、《S ??????》って」


「ま、マジかよ、はじめて知ったぜ。俺もやってみたかったな~」


「止めとけ止めとけ、Aランクとは桁違いなほどに強いらしい」


「なんだそら、そんなんクリアしたやついんのか」


「いや、居ないことは無いが大体は人外じみたヤツらだけらしい」


「うわ、あいつ終わったな」


 野次馬たちは口々にSランクのヤバさと俺の無謀さを話し、謎の盛り上がりを見せていた。


「え、そんなヤバイの? 凄い噂になってるけど」


 「ええ…だる………」と言いながらギルドマスターの後に着いていった。



――――――――――――――――――――――――



 縦幅二十メートル、奥行き四十メートルと言ったサイズだろうか。地面は恐らく砂を特殊な物質で固めて作ったのだろう頑丈なタイル張り。俺と反対方向には鉄格子状の頑丈な扉。周りは二メートル程の壁で囲まれており、その上に多数の観客(野次馬)こちらを見ていた。


「さーやって参りました。解説は現国王ルーカス=ジ=フルストリム王都フルストリムとその愉快な仲間でお送りします。今回はギルド名物始まりの試練! 観客席には相変わらずの声援が広がっています」


「ええルーカスさん、しかも今回はなんとあのシークレットモード、Sランクですから。盛り上がらない方がおかしいですよー。私もワクワクしてきました」


 おいまて、何でお前らこんなとこで俺の試練の解説してやがる


「おっと、早速始まるようですよ」


「ええ、今ゆっくりと、扉が上がっていきます」


 解説に合わせて重い扉は上がっていく。中からは、ローブを被り背中から翼を生やした真っ黒な骸骨が現れた。両手で大きな鎌を持ち、全身に謎のどす黒いオーラを漂わせて。


「――――うわ……ー、あーもう、考えてる暇はねえってことかよ」

 俺を見つけた骸骨はブン、ブンとおお鎌を振り回すと、おおよそ骸骨とは思えない叫び声を辺りに響かせた。


「来いよ骸骨 粉々にしてやるぜ!」

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