第20話

第19話から数ヶ月後。


最後の進路面談をする頃、彩子の学力は、まさに“うなぎのぼり”に上がって県内御三家を受験できるほどになった。

しかし、彼女の志望校は学区で三番手の霞ヶ丘高校。

偏差値で換算すると51。

目をつぶっても合格しちゃうような鳴かず飛ばずのどこがいいんだ。

保護者を交えた三者面談でなんとか説得を試みるも、

「まあ、ウチの子がそう言うのなら」と、お母さん。

「で、でも、お母さん、塾まで通わせて、せっかく成績が上がったわけだし、見える世界が全然違いますよ」と、必死に俺が反論。

「ええ、まあ、私もそう思いますけどもお、本人がねえ、そう言うんじゃあ、仕方ないですよねえ」と、お母さん。

当の本人をチラッと見る。

まさに他人事のような面持ちで、ほっぺに「いいんだもん、それで」と書いてある。

あああ、なんなんだ!まったく!

「玉城さん、ね、いいかい、霞ヶ丘高校ってのはねえ、大学進学率が」

「先生、いいの、それで」

「じゃ、大学行かないの?先生は行ってほしいよ」

「行くよ、大学には」

「どうやって?」

「先生にまた教えてもらえばいいじゃん」

面談の室内が、シーンとした。5秒くらい時が止まったようだった。

気付いたら反射的にお母さんのほうを見ていた。

母といえども、女性である。

俺と彩子の気持ちを知ってか知らずか、俯き加減にうっすら笑みを浮かべていた。

こうして、彩子の志望校は霞ヶ丘高校に決定となった次第である。

そして、俺と彩子の関係は高校に行っても続くんだと、彩子に教えてもらった。

教える立場の人間が、恋の科目に至っては教え子に教わる立場に立とうとは。。。とほほ。

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