第13話 ロマン ポルノ

上海から帰ってきてからの数日は比較的なにも起こらない落ち着いた日々だった。

 学校へ行き下手な英語やら数学やらを教えられ、そろそろ将来について決めろと、教師にさとされる。しかたない、向こうも仕事だからね。しかし、やりようというのは他にもあるのだろうとは思っていた。

 そういった中、Smokeという映画を浅草橋で観た。当時その映画館は名画座といった様な、くたびれた外見で中に入っても、勿論、売店もなく酒以外なら持ち込み可能という方式を取っていた。私は比較的にその映画館によく行っていた。多くの場合、古い日活、東映の映画をやっていたけれど。恐らく大手映画館に対抗してのことだろうけれど、日曜の朝十時からは古い洋画名作を流していた。しかし、それもベタで"カサブランカ"や"慕情"、"テレフォン"とか

レンタルで見れば事足りる作品ばかりだった。けれど、スクリーンで見るとなんというか、本質が伝わってくる。製作者サイドはブラウン管向けにもデジタル向けにも作っていなかった、スクリーンでの上映のみを考えて作っていたのだろうし、一人へ屋でひっそりと観られるなんて、思っていなかったのだろう、当然。

私がその映画館で観たものの中で印象深かった作品は

"汚れた血""エピタフ""Smoke"等で"Smoke"は上海から帰ってきた一週間後に観に行った。

煙草と群像に信頼を持てる作品で今でも時々観たくなるが、あのとき以来、観ていない。

そう、そこでは深夜になるとロマンポルノやフレンチポルノが放映されていて、私も何度か観に行ったのだが、見せられてこの場でどうしようか?というのが素直な一番の感想だった。しかし、ポルノ映画のカラフルでチープ、しかし、人間とは生殖器であるというような壮大なスタンスは素晴らしいと思う。それに、60年代の作品には60sの70年代の作品には70sの臭いがするのには好意的だった。"キャンディー"とか"昼顔"とかね。

 で、smokeを観て家路に帰っているとき、Oから電話があった。

 「元気?」

 その走り出しの彼女の声質には悲しさか虚しさか辛さが伝わってきた。 

 

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