7 祝福の鐘の音

 祝福の鐘の音


 それは、旅立ちの音。……私たちのお別れの合図。


「そろそろ電車に戻ろうか。巴ちゃん」

 優しい夢は言った。

「うん。わかった」

 ……電車には、あんまり乗りたくはなかったのだけど、ほかにすることもないので巴は言う。


「いこ」

「うん」

 巴は夢に手を引かれるようにして、ベンチから立ち上がると、そのまま夢と一緒に電車に乗り込んだ。


 二人が電車に乗ると、電車はそのことがわかっているように、ドアを閉めて、そしてゆっくりと動き出して、加速をし始めた。


「よいしょっと」

 巴はそう言って元の席に座った。

 当然、夢もさっきと同じように、自分の隣の席に座るものだと思っていたのだけど、夢はそこには座らずに、巴の正面の席に移動してそこに静かに座った。


 そして夢はそんな夢のことを不思議そうな顔で見ている巴を見て、にっこりと優しい顔で笑った。


 がたんごとん。

 電車が揺れた。


 二人はそれからしばらくの間、無言になった。

 二人だけの電車の中には、オレンジ色の夕焼けの光が差し込んでいる。巴はずっと、そのオレンジの光の中にいる白鳥夢のことを見ていた。


 夢も、同じように巴のことをじっと見つ目ていた。


 やがて、「……そろそろ、次の駅につくわ。この次の駅は『天国』。巴ちゃんが降りる駅だよ」と光の中で夢が言った。(向こうから差し込んでくる光のせいで、夢の表情はあんまりよく見えなかった)


「……うん。わかった」と巴は言った。

 巴の手にはさっき見つけた『天国行きの切符』がきちんと握られていた。でも、その代わり、巴はずっと握っていた、夢の手のひらを失った。


 それがすごく寂しかった。(また、一人ぼっちになっちゃった、と巴は思った)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る