虹の竜と願いのリセラ

流沢藍蓮

虹の竜と願いのリセラ 1

【虹の竜と願いのリセラ】 


 いつの時代だったのでしょうか。

 場所はどこだったのでしょうか。

 

 竜と、人間。

 本来ならばなれあわないふたつの種族。

 かれらの起こした奇跡があったのです――。


  ◇


 昔々、その世界のある国に、虹の竜がいました。

 かれはぴかぴかと虹色に輝くうろこを持ち、その目も虹色に輝いていました。

 かれがその虹色の翼で空を飛べば、空には虹がかかったように見えました。

 だれもがかれを美しいと思い、実際、かれはとても美しかったのでした。


 しかし、悪意はどこにだってあります。

 人間というのはみにくいのです。

 虹の竜のうつくしさにあこがれ、いつしか人間は虹の竜をほしがるようになってしまいました。

 あのうつくしいうろこ、虹色にかがやく瞳。

 それを宝石にしてみにつけたら、自分がどんなにうつくしく見えるだろう、と、人々は思うようになりました。


 そしてそれは、すぐにおきました。

 その日。虹の竜は、やさしい海辺でねむっていました。

 かれはしあわせでした。かれは自分を見た人々がよろこぶのがわかっていました。

 かれは人々がよろこぶと、自分もうれしくなるのだと、そんなきもちをもっていました。

 人々はいつもかれに言うのです。


「ああ、なんてきれいなんだ」


 けれどもその日、かれをおとずれたひとたちは様子がちがったのです。

 こわい目。らんらんとひかり、獲物をねらう肉食獣の目。

 おおぜいでやってきたひとたちは、手に手に武器をもってかれを取りかこむと、言ったのです。


「おい、そのきれいなうろこをよこせ。きれいなその目をよこせ」


 かれはその言葉をきいて、びっくりしました。

 これまでずっと友達だった人間が。

 いきなりそんなことを言うなんて。

 おどろき固まるかれ。そんなかれを無視して、人間たちはかれとの距離をつめます。

 かれはおびえた顔をしましたが、人間たちはどうじません。


 そして。

 声が。


「――かかれっ!」


 して。

 おそいかかったたくさんの武器。するどいするどい鉄の武器。

 うろこがえぐられ、血がとびます。かれは痛みに悲鳴をあげましたが、人間たちはとまりません。

 かれはこわくなりました。そしてかれは思ったのです。


――このままだったら、ころされる。


 だからにげよう、にげようと、かれは必死で抵抗しました。

 虹色にかがやくしっぽが振られ、人間たちはふきとびます。

 その隙をついて、かれはとうとうにげだしました。

 虹色にかがやくその翼は、いまやまっかな血の色にそまっています。

 かれは失望したのでした。


――ああ、人間はなんてみにくいんだ!


 その日からかれは人間嫌いになりました。


  ◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る