第3話 孤高のフィギュアマニア③

ネット上にあがるのはあくまで画像だけの情報。現物を見た時にクオリティ高かったりするとマイナーキャラでも売り切れたりする。店側が多めに入荷するのは人気No.1のみ。海外商品がゆえに再入荷も期待は薄い。そうなると出回る絶対数が少ない商品を後々手に入れる難易度は跳ね上がるのだ。


「どれだ…探せれ私の脳をフルに使うのだ!これはサブキャラ、映画での活躍によっては需要が高まるかもしれん。これは原作では古参キャラだがお世辞にもかっこいいとは言えない。近年のアメコミ映画ブームから入ったファンからは誰?的な扱いを受けるのは目に見えている。こいつは数合わせの同じ素体の使い回し…」


その時、壁に掛けられたフィギュアの箱の奥から1つのフィギュアを見つける。


「こいつは…!」


スズキが手にしたのはヴァリアント。これは通常の同時発売されるフィギュアの中に色違いやマスクを脱いだ素顔など一部のパーツを変更したバージョンのフィギュアである。これはメーカー側がパッケージにも記載しない事もあるため見落としてしまう事も多い。簡単にいえばレアカラーといったところ。


「中堅ヴィラン(悪役)ミステリマンのオプションパーツと顔の色違いか…塗装ズレもないし箱に目立った傷もない。ただ惑わされるな…現代ではヴァリアントが入手困難になるとは限らない。界隈全体の熱量として盛り上がっていなければ原作再現のオリジナルカラーのフィギュアよりヴァリアントカラーの需要が高まる事はない!ヴァリアントはオリジナルを所有し隣にヴァリアントを並べる事で真価を発揮する!このミステリマンにオリジナルとヴァリアントの両方を買う価値はあるのか?」


その時、スズキのいるコーナーに新たな客が現れる。20代前半の大学生風の青年である。

あなたも経験はないだろうか。スーパーでお肉を選んでいたら横に人が来て同じコーナーで選び始められてしまう事。選びにくくなるし、タラタラ選んでるんじゃねーよさっさと選べよ、と思われているのでは?という被害妄想から来る精神的プレッシャー。


「やばい!私はまだ物色中だ!今時の兄ちゃんって感じだろうが私は見た目で判断はしない。こいつが今手にとっているのはこの店で奇跡的に再販したフィギュア!…こいつ…わかっているやつかもしれん!今回のお目当の[アメイジングレジェンド]は人気キャラ以外は各1つずつしか並んでいない。私は今ミステリマンのヴァリアントを持っているが…持っているという事は相手にも気づかれる可能性がある、ど、どうする…落ち着け。こういう場面において焦りは敗北につながる」


青年がスズキに近づく。スズキは姑息な手段、大げさに体を使い私今ここ見てますよオーラを出す。これで避けてくれればいいが目的を持った買い物客には通じない。


若者がスズキのお目当の[アメイジングレジェンド]シリーズに気づき手を伸ばす。

これをされてはスズキには祈る以外に為すすべはない。


「くっそおおお!落ち着け落ち着け!家にはこのミステリマンの同じサイズのフィギュアはある!造形も今回のものと近い!ならば今私が選択すべきは…!!」






レジを後にし店の階段を下りながら買ったフィギュアの袋を眺める。以前この[クリーチャージャパン]のショッパーにはクリーチャーのイラストが描かれていたが今はただの無地の袋になった。スズキの判断は正しかったのだろうか。自問自答をしていた。






数週間後、ミステリマンは初期ロットのみ原作オリジナルカラーで以降はヴァリアントカラーのみ出回る事になる。

スズキは後悔と自責の念でうなだれていた。


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