第27話 虹色ジェットコースター

 スピカがペンダントを片手に持ちもう一方の掌をシオンに当てるとトップの紫苑はシオンの姿に変る。そして俺の胸で一.五cmの小人がブランコに座り足をぶらぶらする状態が出来上がった。


 飛行中は首に掛けたペンダントが下がり空中でブラブラした。


「街の明かりも見えないの?」

「大きな灯りがぼんやりだけだよ。空中ブランコみたいで面白い、はは」


 そこは怖がらないのか? 俺が気になる。


「すぐ海で真っ暗だから少し寝て」


 作務衣の合わせにペンダントを突っ込み猛ダッシュで飛ぶ。何もない暗い海も星空が方向を教えてくれる。


 南島に着くと家の灯りが昴の横顔を照らしていた。座り込んで真っ暗な海を見ている昴の顔は悪戯っ子には見えない。暗闇に溶けてしまいたい?


「何してるの?」

「コウ君。何しに来たの?」

「百香が到着したから昴を迎えに来た」

「俺はさぁ、守りたいものも無いし家族もいないからコウ君の命令なら百香の義務だと思って行くだけでそうじゃないならここでいいよ」


 俺の所に来たいと思わないのかぁ。本当に百香か?


「ペットが心配?」

「奴らは俺が居なくなれば広い海の何処へでも行くから大丈夫だよ」

「人が怖い?」

「子供のくせに何でそんな事言うの?」

「俺は子供じゃない。昴は悪ふざけが過ぎるから蜜人のサポートが必要でしょ」

「俺みたいなやつに付きたい蜜人はいないよ。誰かを助けても怖がられるんだ。悪戯しても誰も叱らないしカップリング出来なかったからコウ君みたいに香人キングにも成れなかった。だから俺は他の百香と違って好きでここに居るんだよ」


 この人にはミラーやあきら、修一が居なかった。

 アルファルドが死んで南島に行くと自分で手を上げたのか。


 こそばゆいから胸で泣くな!

 ペンダントを撮み出すと昴が興味津々で眼を凝らす。


「フェアリーか? 前に宮廷で会ったコウ君のハニーじゃないか。何で泣いてるんだ?」

「泣いているのは昴のせいだから宥めてよ」

「俺のせいなのか? 怖いのか? 離れればいいのか?」


 昴の頓珍漢な問いにシオンが顔をゴシゴシ擦って怒る。


「あんた馬鹿だな! 京が居るのに怖いものなんかあるか!」

「フェアリーは泣いてるくせに強気だなぁ」

「泣いてない!」


 小さいのに変わらない。ははは。ついでに昴の悪戯をシオンに言いつける。


「シオン、海洋生物をビーチに派遣したのは昴だよ。あのクジラは生きてるって」

「何てことするんだ危ないだろ! 人が襲われたらどうするんだ!」

「そんなにダメな事だったか? ごめんな」


 ふふふ、シオンが泣いている理由が理解できる。困っている昴はちょっと前の自分を見ているようだ。フェアリーシオンどうする?


「これから変るから前の事はいいじゃないか。これからでいいじゃないか」

「これからだって同じだよ」

「違う! 京なんかお茶も入れられないしほっといたら食事もしないしその辺で寝るくせに空飛ぶぞ。香砲弾なんて大砲打つし気香を使ったら俺なんか死ぬ。あんたなんか大した事ないんだ!」


 でたぁー、シオンの変な理屈。大半は俺の悪口だけど。


「おぉ、何言ってるかよく分らないけど俺の気香でも絶対お前は死ぬぞ。ははは。大した事ないって言われたのは初めてだ。へへ」

「京の方があんたより何倍も強いのに泰斗も蓮もあきらさんも修一さんも幹部達だって皆、みんな京が好きだぞ! 早く荷物を纏めろ……うっ……」

「それで、泣き止むのか?」

「泣いてない!」


 密人の勝ち。ふふふ。

 招かれた昴の部屋は綺麗に片付き生活能力があるのだと分かった。

 弱者に負けた気がする……。

 ベッドが無い代わりに一平方メートルの模型を発見!


「何これ?」

「東のテーマパークができる前にあった遊園地のジオラマだよ。当時はジェットコースターが人気で両親と一度だけ乗った事があるんだ。はは。俺はコウ君と違って器用だからティーカップだって空中ブランコだって忠実に再現してあるんだぞ……その子とデッカイ犬はいつから居たんだ?」


 来ちゃったのね。オメガは遊園地に行った事があるの? 首を横に振った。

 ジオラマを自慢げに語り笑っていた昴の顔からふっと笑みが消えた。


「俺は後から魚に乗って海を渡るからお前らは先に帰れよ」

「やだ! あんた来ないだろ、一緒に行く」


 胸でシオンが怒鳴ると俺から声が出てるみたいだ。

 昴は一瞬俺を見て胸に視線を下げた。


「魚に乗って海を渡るのは過酷なんだぞ。街に着くまでに子供と犬は死ぬから無理言うなよ。あっ、こら泣くな」

「馬鹿だな、あんた……」


 小さなシオンの目から小さな小さな秘薬の粒が舞う。


「昴、シオンは言い出したらきかないから一緒に来てもらうよ」


 外でタワーを造り天辺から気香ドームの張られた慈愛邸まで気を辿り虹色の滑走路を敷いた。車両も虹色。ふふ。

 一度下りて荷物と昴を掴んでタワーの上まで飛ぶ。フフフフン♪


 オメガを乗せたオッドアイもタワーを駆け上がりジェットコースターに乗り込んだ。

 出発だぁ!


「俺とオメガは遊園地に行った事がないから初ジェットコースターだぁ! 速いという認識でいいよね。行くよ!」

「待て。ジェットコースターには安全ベルトがあるんだぞ」

「模型に無かったから知らない。適当に掴まればいいでしょ」


 羽ばたいて加速させる。ヒャッホー! 怖がるオメガを抱くとシオンが叫んだ。


「虹色が綺麗だ! 俺はジェットコースター好きだぁ! はは」


 楽しそうに燥ぐシオンは珍しい。いいもの見た。

 一回転したら昴が「わぁわぁ」騒ぐのは何でなの? オッドアイが車両の上に立ちモフモフの尻尾を風に靡かせる。

 暗い海を渡りビルの間を抜け民家の屋根を翳める。もうすぐ慈愛邸だ!


「シオン、ジェットコースターってどうやって止まるの?」

「ジェットコースターは出発地点に戻ってブレーキで止まるんだ。早くブレーキだ、ブレーキを掛けて減速させろ」


 ブレーキ? 模型に無かった。


「昴。ジャンプだ」


 激突する寸前でオメガを抱いて飛ぶとオッドアイと昴がジャンプ! 着地でズルッと滑った昴をオッドアイが足で踏み止めた。


 車両はドームに突き刺さり止まったから問題なし! 

 車両を消して穴から入ろうとしたら出迎えの皆様が居た。


「何て事をするんだ! 近所迷惑だろ! 家に落ちたらどうする気だ!」


 プロキオンに怒鳴られた。出迎えでは無かったらしい。


「コウ君、早く虹を消して下さい。騒ぎになりますよ」


 うぇー。ミラーも静かに怒っていらっしゃる。

 昴と荷物を下ろしてから滑走路を消しドームの穴を塞いだ。


 部屋で人間に戻ってからシオンも怒るのかと思ったら紫苑のペンダントを自分の首に掛け「楽しかったぁ」と笑う。昴が喜ぶのかと思いきや青い顔で呟く。


「コウ君は怖い。俺なんか可愛いもんだ」


 どーゆう事? 全く分からない。

 遠い南島から昴を連れて来たのに皆は部屋にはけて行きオメガを抱いてソファーで寝る……理不尽。


******************************


 各地で未確認生物や未確認飛行物体目撃のニュースが流れ国防軍の姿が国のあちらこちらで見られるようになっても百香行方不明のニュースなど流れない。


 そりゃそうだ、誰も探す人がいない。

 慌てているのはポイズと大御所理事長だけぇー。

 山根と大御所理事長が行方不明であきらもキングも不在となれば香人協会も機能しない。

 学校は先週から臨時休校となり幹部とはシオンが連絡を取っている。


 皆様はショッピングに出かけてお留守。オメガまであきらが連れて出かけた。

 個性的な百香達の服装もミラーと修一の手で普通に仕上がり何食わぬ顔で家族と遊びに行ける。変わらないのは俺の作務衣と暇を持て余した昴だけ。


「昴、暇なら剣のトレーニングをしよぅ」

「俺は命の危険を感じるし物を壊すと仙香様に叱られるからイ・ヤ・で・す」

「じゃあ、またジェットコースターで遊ぶ?」

「もっと嫌です。フルーツを剥いてあげるから大人しくしてなさい」


 暇を持て余しているのは俺だった。協会に帰らないと本もない。

 なんだかんだ面倒見のいい昴はナイフでグレープフルーツとキウイを剥いてくれる。


「昴の頭はなんでクルクルなの?」

「クルクルパーみたいに言うなよ。自慢の天パだ!」


 触ってみたい。キウイを切っている昴の後ろに回り込んで髪を指で梳かす。髪が固くて引っ張ってもまたクルッと巻くしモシャモシャするとそのままの形をキープするぅ!


「コウ君、俺の頭は面白いか?」

「とても」

「フェアリーの髪じゃなくてもいいのか?」

「シオンは香るから別格。人の頭を嗅いだり撫でたりすると皆に叱られるから普段はしないよ。バネの髪……ふふふ」

「バネじゃないだろ? それにしてもコウ君はよく皆に叱られてるよなぁ。はは」

「俺の周りは変人揃いだから……形状記憶ヘアー。ふふふ」

「コウ君が一番の変人だろ? あっ、ニュースだ。見ろ」


 付けっ放しのタブレットにニュース速報が流れ外でサイレンが鳴り響いた。


(未確認生物十体が北十区非居住地帯に侵入、国防軍が出動)

(北五区から九区に避難指示)


「コウ君、どうするの?」

「皆の希望だから静観する」


 繚乱に避難誘導開始のメッセージを送りオッドアイと寝る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る