第25話 ミスドのサイドメニューは意外とおいしい
「ブロケード、お前・・・・・・」
ゴマモンガラがこの日本列島に潜伏して人間を学習している。
そんな仮説を聞かされて背筋が凍り付いてなにも返せなくなる。
そんな馬鹿な、あり得ない。
いや、あり得ないなんてことはあり得ない。
そんな思考が否定と仮説を繰り返す無限ループを数周したところでブロケードの声がそれを打ち破った。
「なーんてね!冗談さ!本気にしちゃったかなユージ」
「あだ!」
背中を叩かれて現実に帰ってくる。
「ってジョークかよ!!本当にしても質悪いぞお前!!」
「ハハハ、驚いたかい。僕のセンスはどうやら日本人にも通じるらしいね」
ブロケードは笑いながら自分のジョークセンスを自画自賛する。
「割とジョークになってないと思うぞこれ」
「うん、だってこれニーナがラボでぶつぶつ言ってた独り言が元ネタだから」
「マジじゃねーか!!どこにジョークの要素があるんだよ!!」
テンションの上下が激しすぎてつらい。
マジと見せかけてジョークと見せかけてのガチ真実とかどんな3段構えだよ。
一片の隙もねえじゃねえか。
「つまりだよ、いつ君の意識的ステルス能力が見破られても不思議じゃないってことさ。君の能力は敵意を向けられないだけで透明になるって訳じゃないんだから」
「成程な。忠告サンキュ」
「それじゃあね!僕はこれから武装の訓練をするからまた!」
そう言ってブロケードは去っていく。
はて、武装の訓練とは一体何なのだろうか。
海藻と生魚と酢飯と醤油を載せていた皿をキャッシャーに片付けるとみ知った顔に出会った。
「あれ!あのときのヒーローのお兄さんじゃないですか!!」
黒髪セミロングの大学生くらいのお姉さんだ。
見たことはあるのだが名前が思い出せない。えーっと・・・・・・
「失礼ですけど俺たちどこかで会いましたっけ?」
「いやー、やっぱわかりませんでしたか。私ですよ、ミスタードーナツの店員です!」
ああ、あの時のミスドの店員さんか。
煮えたぎった油をぶっかけて火をつけるというぶっ飛んだ方法でゴマモンガラを素揚げ兼焼き魚にした俺の命の恩人。
命の恩人のことを忘れるなんて俺はなんて失礼な奴なんだ。
「ああ、あの時の店員さんでしたか。これは失礼しました。そしてありがとうございました」
謝罪と感謝、二つの意味で頭を下げる。
「いえいえいえいえ!助けられたのはあたしなんですから顔を上げてくださいホンソメっぽいヒーローさん!」
「いえ、実際命を助けられたのは事実ですから。っていうかおねえさん今なんて言いました?」
今少し引っかかることをこの店員さんは言わなかったか?
俺がホンソメワケベラの半魚人であることを知っているのはニーナ・ゴリウスの主従やブロケードといったエーゴマ隊のメンバーと朱鷺子と両親だけだったはず。
一般人代表のこの人が知るはずがない。
「え?ですから顔を上げてくださいって」
「いやその少しあとです」
「ホンソメっぽいヒーローさんって言いましたけど・・・・・・」
「なんで俺がホンソメワケベラっていう魚の半魚人だって知ってるんですか!!」
「ええーー!!ホンソメの半魚人なんですかーー!!」
焦って機密を漏らしてしまった。巧みすぎる誘導尋問。
っつーか体色のカラーリングだけで気づいてんのかよこの人!!
確かに俺の見た目は人間とは言えないウルトラマンみたいな見た目をしているがそこから真実にたどり着けるもんなのか!?
すさまじい洞察力と発想力、まさしく天才のそれだ。
「ってどうゆことなんですかホンソメのお兄さん!半魚人って・・・・・・」
「これは機密なんで誰にも言わないでくださいね。実は————」
まずい。この探偵みたいな観察能力を持つお姉さんに機密を守り通せる自信はない。
だから打ち明けて口止めしてもらうしかない。
「なるほど・・・・・・死と半魚人の二択の手術、A-GOMA手術ですか・・・・・・まさかそんな技術があるとは・・・・・・」
ミスドのおねえさんはうつむいたまましばし考える。
「っていうかこれあたしに話して大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないけど隠し通せる自信がなかったんです」
「あ!すいません。それとさっき一緒にいたシマシマのお兄さんはもしかしてミノカサゴですか?」
「だからなんでわかるんですか!」
この人の観察力はどこまで正確なんだ。一目で全部見抜きやがった。
ミスドの店員にしておくには惜しい才能だ。探偵にでもなったほうがいいんじゃないか。
「いや、だってお兄さんはホンソメっぽいしあの外人さんはミノカサっぽくないですか?それもキリンの」
すげえ。細かな種類まで見分けてやがる。
「どんな洞察力してるんですか・・・・・・本当に何も知らなかったんですか?」
「ええ。お兄さんに言われるまではなにも知りませんでしたよ」
マジかよ。この人、全部天然なのか。
「あ!あたしこれから給仕のシフトなので失礼します!それでホンソメのお兄さん、名前、教えてください!」
「ええ、鮫島優二って言います」
「鮫島さんですね!あたしは————」
彼女の名前を俺が聞くことはなかった。
彼女が名乗ると同時に大音声でアナウンスが流れたからだ。
「招集!招集!鮫島優二様は直ちに指令室に来てください!!」
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