第9話 もんじゃ味のドーナツってのがミスドにあったんだよ。ゲロみてえな味だった。

結論から言えば奇襲は成功した。

フルスロットルで回転するチェーンソーの刃が1番手前のゴマモンガラのずんぐりむっくりして平べったい体に食い込んでいく。

バリグチャグチャベシャバキジュゥイーーィィィィィィィ!!


魚肉を切りを裂き、鮮血を飛ばして骨すら削り取るチェーンソーの刃からフィードバックされる手応えが生々しい「殺した」感触を訴える。

俺はリアルでは魚も捌いた経験すらない高校生だが、それでもこんなので手は緩められないし、そんな余裕はない。

この魚共を全部活け造りにする気で全体重を掛けて背骨を叩き折る。

ゴマモンガラの身体をはその負荷に耐えられずに刹那の後に一刀両断にされた。

チェーンソーの切れ味はよく、素人の俺でも大型犬くらいあるゴマモンガラの身体を切り裂いくのに時間はかからなかった。

しかし、我ながら魚のさばき方としては下の下の出来栄えだ。

落ちたお頭は胴体の肉を大量に残して大量のウロコと血を撒き散らしているし、切断面がグチャグチャで刃物で斬ったとは思えない雑な仕事だ。

刃に巻き込まれた内蔵の破片がそこらじゅうに飛び散って水溜まりに花をそえた。


「さぁ!つぎはドイツが相手だ!まとめてぶっ殺してやらあ!!」


チェーンソーをもう一度構えて宣戦布告するとミスドに群がっていたゴマモンガラが一斉にこちらに振り向いて血走った黒目の小さな目を向けてくる。

────それは、この体になって初めて浴びせられるゴマモンガラの敵意と食欲だった。

奇声を発するもの、サメと比べるとなまくらとしか言えない歯をガチガチと噛み合わせるもの、ヒトの腕が生えてるもの足が生えてるもの、挙句の果てに髪の毛まで生やしているものまで揃った多種多様なゴマモンガラたちのテーマパーク。

一見するとホラーゲームよりギャグマンガや子供向けアニメに出てきそうな外見だが、習性とデザインと目つきが気持ち悪すぎる。GAN〇Zに出てきそうだ。

そんなものには怯まずに俺は4つ目のキルスコアに手を伸ばさんと1番近くにいる毛深い腕付きゴマモンガラにチェーンソーを振るう。

しかし、チェーンソーの刃はゴマモンガラの口を薄く切るだけで静止する。

コイツ、

血に濡れた刃が口腔内で虚しく空回りする。


「うわああああああ!」


まずい、鋼鉄すら食い破るヤツの歯は万力以上の咬合力を発揮する。

ここでチェーンソーを折られたら敗北は必定。なんとしてもこのチェーンソーを守らなければ————

一旦チェーンソーを手放してローキックをかます。

横っ面にヒットして毛深い腕付きゴマモンガラはチェーンソーを放して濡れた石畳のうえを滑っていく。


バシャ!と水溜まりが跳ねる音が聞こえた。

見上げると左から足、足、腕を生やした3匹のゴマモンガラが昭和ライダーの悪役みたいに3mの大ジャンプで空中から襲い来る。

ローキックで片足立ちになった俺に回避は不可能。

それにコイツらに防御は無意味。そんなことをしたらその上から食い破るられる。

ならば殺られる前に殺れ────!

右の黒髪おかっぱゴマモンガラは無視して中央のスネ毛足付きモンガラを殴りつける。

横っ面に拳が当たってウロコと魚特有のヌルヌルした感触がかえってくる。

スネ毛が吹っ飛ぶ。それに押されて左の足が無駄にすらっとして綺麗なゴマモンガラが噛みつきの体勢をわずかに崩す。

しかし、ゴマモンガラたちの武器はその凶悪な顎だけではなかった。

おかっぱは腕を伸ばしてラリアットをかまし、美脚は空中で回ってローリングソバットをかましてくる。

あれだけの跳躍力を誇る膂力だ。

直撃を喰らった俺は激しい衝撃に負けて後ろに弾かれ、水溜まりに倒れる。


倒れた俺の目の前にあるのはギョロギョロした忙しなく動く魚眼の群れ。

そうだ。今までで襲われていなかったから俺は失念していたんだ。


人類すら喰らい尽くすゴマモンガラの恐怖を。


人間以上の速度て地球を蝕まんとするマエコウの驚異を。

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