疾(はや)きこと

 様々な意味で悪魔と呼ばれた馬を乗りこなした、というよりは乗りこなすのを馬自身に許された騎手の視点から描く悪魔の最期。
 多少は競馬で遊んだ人間として、出走出来なくなった馬の運命は知らないわけではない。その点、本作の馬は公平に見てまだしも幸運な方だとは思う。同時に、騎手のシビアな人生にも間接的に触れている。
 北海道の恐ろしい季候を背景に、かつては悪魔と恐れられ愛されたその馬の心を巡ったのはなんだろう。
 私としては、少年の手になるそれが回答だと信じたい。
 簡潔で引き締まった文章で綴られた名作である。