温泉旅行と先輩カップル

第37話



「はぁ~良いお湯でした~」


「それは良かったね」


 愛実ちゃんは俺のスウェットを着てお風呂から上がってきた。

 流石に寝間着までは用意して来なかったと言うことなので、愛実ちゃんにスウェットを貸したのだが……。


「はぁはぁ……次郎さんの香りが私を包んでる~……はぁはぁ……」


 今度から絶対に貸したく無いなと思ってしまった。

 

「なんでも良いけど、あんまり匂いを嗅ぐな」


「か、嗅いでませんよ! はぁはぁ……」


「脱がすぞ」


「え! そ、そんな……嬉しいですけど……電気は消してくださいね」


「ダメだ、どっちにしろ変態だ……」


 俺はため息を吐き、ベッドの上でスマホゲームの続きをする。

 すると、愛実ちゃんもベッドの上にやってきて俺のスマホの画面を覗き込む。


「それ楽しいんですか?」


「まぁまぁ」


「そんな事より私と楽しいことしましょうよ~」


「楽しい事ってなんだよ……」


「そんなの私の口から言えませんよぉ~!」


「そう、ならいい……」


「次郎さん……冷たすぎです……」


 その後、俺と愛実ちゃんはネットで動画を見て過ごした。


「さて、そろそろ寝るか」


「はい! じゃあ電気消しますねぇ~」


「うん」


 愛実ちゃんはそう言って、部屋の電気を消して俺のベッドに入ってくる。


「じゃあ、お休み」


「はーい、お休みなさいです!」


「眠くなさそうだね」


「え? そう見えます? まぁ少し興奮はしてます」


「じゃあとっとと落ち着いて寝てくれ」


 俺は天井を見ながら目を瞑る。

 しかし……。


「おい……」


「………」


「おい!」


「あうっ! な、何するんですか!!」


「何するんですかじゃない! 何自然に俺のズボンを脱がそうとしてるだ!」


「いや……あの……生理現象とか起きてたら大変なので……」


「起きるか!! 何でもいいから離せ! この痴女!」


「彼女を痴女扱いなんて酷い!! 責任取って抱いて下さい!!」


「もう話しがメチャクチャだ……」


「あぁ~なんでそっち向くんですかぁ~」


「やっぱりなんかそっち向いて寝るの怖い」


「怖いってなんですか!」


 俺はそんな事を言いながら、目を瞑ってだんだん眠りに落ちていった。

 今日はデートとか色々あって大変だったしなぁ……少し疲れた……。

 愛実ちゃんよりも先に俺は眠りに落ちた。

 まぁ……色々あったけど……楽しかったな……。





 三月に入り、俺は春休みに入り、バイトに精をだしていた。

 愛実ちゃんとの交際も順調だ。

 多少愛実ちゃんのアプローチが積極的ではあるが、これといって問題も起きていない。

 そんなある日だった……。


「次郎!!」


「なんすか高井さん?」


「大変なんだ聞いてくれ!!」


「あぁ……高井さんのその格好を見れば、何となく大変なのはわかります……」


 高井さんはバイト先の制服をすべて裏表逆で着ており、帽子を逆さまに被っていた。


「で、その馬鹿な格好はなんですか?」


「あぁ……実はだな……」


 俺は高井さんと共に休憩室に向かい、高井さんが制服を着直している時に話しを聞いた。 なんでも高井さんが彼女と喧嘩をしたらしい。


「原因はなんですか?」


「聞いてくれよ!! 今度の旅行は絶対に温泉って決めてたんだ! なのに……あいつはネズミがマスコットのあのテーマパークに行きたいって言うんだ!!」


「あぁ、俺にはどうでも良いんで、仕事戻ります」


「ちょっとまて!! お前からも説得してくれよ!」


「なんでですか、面倒くさい……」


「あ! 今面倒くさいって言ったろ! 先輩の頼みだろ! 言うことを聞け!!」


「そんな事を言われても……」


「頼むよ! お前なら玲佳(れいか)と面識あるし!」


「はぁ……わかりましたよ」


 高井さんの彼女の名前は坂原玲佳(さかはら れいか)さん。

 大人っぽい女性で、子供っぽい高井さんとは正反対の性格の人だ。

 この二人が喧嘩をするなんて珍しいな……。

「じゃあ、今日のバイト終わりに一緒に来てくれ!」


「はぁ……面倒だなぁ……」


 高井さんに言われ、俺はバイトが終わってすぐに高井さんと共に、近くのファミレスに向かった。

 ファミレスには既に怒った様子の玲佳さんが腕を組んで座っていた。


「あら、岬君。久しぶりね」


「あ、どもっす、玲佳さん」


「元気そうね、今日は……後ろに隠れてる馬鹿に頼まれてきたの?」


「ば、馬鹿とはなんだ!」


 高井さんは玲佳さんには弱い。

 喧嘩は強いのに、玲佳さん相手になると途端に弱くなる。

 俺と高井さんは玲佳さんの目の前に座り、ドリンクバーを注文して本題に入る。


「あの……大体の内容は高井さんから聞いたんですけど……なんで旅行の行き先で喧嘩なんか?」


 俺が玲佳さんにそう聞いている間も高井さんはビクビクしながら玲佳さんを見ていた。

 玲佳さんはそんな高井さんを睨み付ける。


「別に……そこの馬鹿の馬鹿さ加減に呆れただけよ……」


「な! お、俺はそんなに馬鹿じゃないぞ! って玲奈に言ってくれ岬!」


「……自分で言って下さい」


 玲佳さんの言葉に高井さんは俺にそう言う。 なんでこの人はこんなに玲佳さんの尻に敷かれているのだろうか……。

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