第33話

 喫茶店は朝と言うこともあり、静かだった。 映画館はこの喫茶店から歩いて数分、少し遅く出ても映画には間に合うだろう。

 今回の映画は、愛実ちゃんが見たいと言うので一緒に来たが……その作品の内容が正直問題だ……。


「あのさ……なんであの映画が見たいの?」


「だって、面白そうじゃないですか!」


「あれが?」


「はい! 上映楽しみにしてたんですよ!」


「あぁ……そ、そっか……アハハ……」


 俺は愛実ちゃんにそう言いながら、苦笑いをする。

 まぁ……うん……何が見たいか聞いてのは俺だし、俺もこれと言って見たい映画が無いから良いんだけどさ……。


「まさかのこれかよ……」


 俺と愛実ちゃんは喫茶店を出て映画館にやってきていた。

 愛実ちゃんが見たいと言った映画、それはサスペンスホラー映画「スクラッパー」だ。

 映画の内容は、連続猟奇的殺人鬼から主人公達三人の高校生が逃げると言う話しだ。

 しかもこの映画はR15指定の映画。

 ネットの評判を見ても、もの凄く怖いと評判だった。

 

「私大好きなんです! ホラー映画!!」


「そ、そっか……」


 映画館に入り、愛実ちゃんは目をキラキラさせながらパンフレットを見ていた。

 楽しそうで何よりだが……俺の心中は全然穏やかでは無い。

 やべぇ……やべぇよ……よりによってホラーかよ!!

 俺はホラー映画とかホラーゲームが大嫌いなんだよ!!

 冷や汗を掻きながら、俺は愛実ちゃんの隣で一心不乱にポップコーンを食べる。


「次郎さん?」


「な、なんだ!!」


「ん? なんでそんな緊張してるんですか?」


「き、気にするな!!」


「ん?」


 そんな会話をしていると、急に辺りが暗くなり始めた。

 映画が始まるらしく、スクリーンには公開予定の映画のCMが流れ始める。

 大丈夫だ、怖くない、怖くない。

 っていうか、ホラーがダメなんて愛実ちゃんにバレたら、絶対にからかわれる!!

 俺がそんな事を必死に考えていると、本編が始まってしまった。


「次郎さ~ん、怖かったら私の手を握っても良いですからね?」


「そ、そうか!」


「ふぇっ!?」


 愛実ちゃんがそう言ってくれたので、俺は思わず愛実ちゃんの手を握った。

 ついに映画が始まった。

 映画の内容は、高校生四人が肝試しで廃墟にやってきた。

 しかし、その廃墟には連続殺人鬼が住みついており、その殺人鬼から逃げながら廃墟を脱出するというストーリーだった。

 ちなみに俺は、怖すぎてずっと愛実ちゃんの手を握っていた。

 いやはや……恥ずかしい……。


「はぁ……」


「面白かったですね!!」


「全然……」


 映画が終わり、俺と愛実ちゃんは映画館から出てきていた。


「でも知らなかったです……まさか次郎さんが……フフフッ……」


「笑うなよ!!」


「だって……ずっと私の手……離さないじゃないですか……」


「あっ! こ、これはちげーよ……」


 そう言って俺は握っていた愛実ちゃんの手を離した。

 しかし、愛実ちゃんが俺の手を取って握る。

「良いじゃ無いですか! 繋ぎましょうよ! デートだし!」


「そ、それは良いけどよ……」


 俺と愛実ちゃんは手を繋いで近くのショッピングモールに向かう。


「次郎さん、私買いたい物があるんですよ」


「なんだ?」


「下着です」


「頼むから、そういうのは友達と買いに来てくれ……」


「えぇ~、だって次郎さんに好みを聞いた方が手っ取り早いじゃないですか?」


「手っ取り早いってなんだよ……」


「だって、下着を見せる相手本人ですし」


「見ねーよ!!」


「え!? だっていつかはしますよね? セッ……」


「おい、それ以上こんな人通りの多い場所でいうんじゃ無い」


「むぐぅ……むぐ……」


 まったく、愛実ちゃんは何を言い出すかわかったものじゃないな……。


「じゃあ良いですよ、普通に服を選ぶの付き合って下さい」


「元からそのつもりだよ、下着は女の子同士で買いに来てくれ」


「わがままだなぁ~」


「どっちがだ!」


 話しをしながら、俺たちは女性向けのアパレルショップに来た。


「さて……どれがいいですかねぇ~」


「そう言われてもなぁ……俺そういうのよくわからないし……」


「じゃあ、次郎さんはどんなのが好きですか?」


「どんなのって……」


 俺と愛実ちゃんがそんな話しをしていると、一人の女性店員が俺たちに近づいてきた。


「いらっしゃいませ~、何かお探しですか?」


「あ、えっと……この子の服を見に来てまして……」


「あ、そうなんですか! 彼女さんの服を? 仲良いんですねぇ~」


「か、彼女……ふふ……」


 彼女と言われた事が嬉しかったのか、愛実ちゃんは機嫌良さそうに笑みを浮かべる。


「それでは、こちらなどいかがでしょうか?」


「あ、これ良いですね!」


「良ければご試着してみますか?」


「はい! 是非!」


 愛実ちゃんはそう言って、試着室の中に入っていた。

 

「じゃ、じゃ~ん! どうですか! 次郎さん?」


「ん、良いじゃん。可愛い」


「あー、なんか反応薄い……」


「そう言われてもなぁ……」


「それではこちらなどいかがですか?」


 そこから愛実ちゃんのぷちファッションショーが始まってしまった。

 店員さんが選んだ服を愛実ちゃんが次々と着ていく。

 

「これはどうですか!?」


「だから、可愛いって」


「またそれですか!? もう! ちゃんと見てます?」


「はぁ……はぁ……な、中々……彼氏さんを満足させられませんね……」


 俺の反応が薄いせいか、愛実ちゃんも店員さんもムキになっていた。

 

「か、彼氏さんのツボがわからない……こんなこと始めてだわ……」


 店員さんが何かを言っているが、俺の意見は多分変わらない。


「もう! 次郎さんはどんなのが良いんですか!!」


「は? いや、別に……服がどうこうとかじゃなくて、もう既に可愛いんだから、何を着たって感想は同じだろ?」


「………な、何を言ってるんですか……馬鹿……」


 俺がそう言うと、愛実ちゃんは顔を真っ赤にしてモジモジし始めた。

 何か変な事を言っただろうか?

 店員さんも何故か顔を真っ赤にして俺と愛実ちゃんを見ていた。


「いいなぁ……私も彼氏欲しい……」


 業務中と言うことを忘れているのだろうか?

 店員さんの素の願望が聞こえてきた。

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