第30話

 俺は愛実ちゃんを座らせて目の前にお茶を出す。

 愛実ちゃんは泣きながらお茶を飲み始めた。

「で……何?」


「ぐすっ……何って?」


「何しに来たの?」


「うっ……察して下さいよ!!」


 いや、何を察しろと?

 俺ははぁーとため息を吐き、愛実ちゃんに尋ねる。


「なんで、俺たち喧嘩したみたいになったか覚えてる?」


「え……優美のことですよね?」


「そう……でも、いま思い出すと、どうでも良いことだよなぁ……」


「はい、凄く馬鹿らしいと思います」


「怒ってた本人がそれ言う?」


 俺はため息を吐き、安岡に言った言葉を思い出す。


(寂しいと感じたら、それは好きってことなんじゃない?)


 俺は自分で言った言葉を思い出し、愛実ちゃんを見て考える。

 なぜだろうか、愛実ちゃんが部屋にやってきてから、俺はなんだか安心している。

 

「はぁ……愛実ちゃん」


「なんですか……」


「俺の事……まだ好き?」


「いきなりなんですか? 好きに決まってるじゃないですか」


「そっか……」


「なんですか! また諦めろっていうんですか!! 言っておきますけど、今回の事でわかりました! 私は次郎さんの事諦められませんから!!」


「じゃあ……付き合うか……」


「だから諦めないって………え?」


「ん? だから、付き合うかって」


 俺がそう言うと、愛実ちゃんは少し考え、その後愛実ちゃんの顔が見る見る赤くなっていった。


「え……あ、あの……え? な、なんですか……きゅ、急に……」


「いや、なんか色々考えてさ……愛実ちゃんが居ないと寂しいなって……」


 なんだか改めて口に出すと恥ずかしい。

 愛実ちゃんはまだ状況が良く分かっていない表情でただただ、あわあわしていた。


「あ……あいや……あの……えっと……じゃ、じゃあ……その……えっと……今から恋人同士……ですか?」


「まぁ……そうなるな……」


「じゃ……じゃあ……キスとかして良いんですか?」


「状況にもよるけど……」


「一緒に寝るのは!?」


「場合によるけど」


「一緒にお風呂は!?」


「当分無いけど」


「セッ……」


「それ以上言うな」


 とんでもない事を口走ろうとしていた愛実ちゃんの言葉を遮り、俺はため息を吐いて愛実ちゃんに言う。


「まぁ……その……俺も色々考えてさ……この結論に至ったっていうか……」


「そ、そうなんですか……」


「あぁ……」


 少しの沈黙が訪れる。

 愛実ちゃんは俺の顔をチラチラみながら、すこしづつ俺の隣にやってきた。


「じゃあ……あ、あの……よろしくお願いします」


「う、うん……」


 愛実ちゃんは俺の隣にやってきて、俺の手を握ってそう言う。

 俺が手を握り返すと、愛実ちゃんは嬉しそうに笑顔を浮かべ、俺の肩に頭を乗せる。


「次郎さん……よろしくお願いします」


「あぁ……待たせてごめん」


「それはチューしてくれたら、許してあげまる」


「それは、もう少し経ってから」


「え~、今からイチャイチャしましょうよぉ~」


 そんな事を言う愛実ちゃんに俺はため息を吐く。

 この子は本当に俺が好きなんだろうな……。 こうして俺と愛実ちゃんは付き合う事になった。

 安岡の事は言えないなと思いながら、俺は愛実ちゃんの頭を撫でる。





 あの日から数日が過ぎた。

 俺は相変わらずバイトと大学の日々だった。 ただ一つ……変わった事があるとすれば……。


「ただいまぁ」


「おかえりなさい! ご飯にします? お風呂にします? それともわ・た・し?」


「………」


 年下の彼女が出来た事だろうか……。


「また来たの? 学校は?」


「テスト休みです!」


「テスト勉強をしろ」


「あうっ! い、痛い……」


 愛実ちゃんと付き合い始め、俺は愛実ちゃんに部屋の合鍵を渡した。

 愛実ちゃんの通っている学校から、俺の部屋は近いので、何かあった時に避難出来るようにと思って渡したのだが……最近は思いっきり私欲の為に使っている。

 学校の制服にエプロン姿……好きな人は好きだろうが、俺にはあまりぐっと来ないな……。


「次郎さん今何か失礼な事考えませんでした?」


「考えて無い」


 関係は今のところ良好だ。

 仲良く過ごしていると思う。

 愛実ちゃんが自分の両親にも俺の事を話したらしく、時々愛実ちゃんお母さんから料理の差し入れなんかもある。

 一人暮らしの俺には嬉しいことなのだが、それに対抗するかのように、最近愛実ちゃんが俺の晩飯を作りにやってくるようになった。

「次郎さん、今日の晩ご飯は何がいいですか?」


「そうだなぁ……」


「私ですか?」


「うーん……魚かな?」


「なんで無視するんですか!!」


「まず、女の子がそう言うことを言うな……」


 ……と、こんな感じの日々を毎日過ごしている。

 愛実ちゃんは付き合い始めてから、より一層積極的になった。


「次郎さん、キスしましょう!」


「やだ」


「なんでですか!」


「逆なんで今するんだよ……」


「したいからです!」


「こんな人通りの多い場所で言うな!!」


 バイト先には、俺と愛実ちゃんの関係を知っている人達にしか言っていない。

 流石にバレるかとも思ったが、これが意外にもバレない。

 それに店長が彼女に振られたらしく、バレたら色々と面倒そうだ……。


「愛実ちゃん、そろそろ帰ったら? 夜も遅いし……」


「次郎さん……明日は何曜日ですか?」


「土曜日だね」


「イコール?」


「………まさか、また泊まるの!?」


「ダメ?」


 上目遣いで俺にそう言ってくる愛実ちゃん。 そんなのダメに決まっている。

 きっと親御さんだって、男の部屋に泊まるなんて心配だろう。


「ダメだよ、愛実ちゃんの親御さんが心配する」


「なるほど……うちの両親の了承があれば良いんですね?」


「いや……そ、そう言う訳では……」


 そう俺が言っていると、愛実ちゃんは自分のスマホを取り出し、どこかに電話を掛け始めた。


「あ、もしもしお母さん? うん……そう……うん……だからね、今日は次郎さんの家に泊めてもらうことにしたから……うん、わかった……はい、次郎さん」


「え? 俺?」


 俺は愛実ちゃんからスマホを渡され、電話に出る。


「はい?」


『久しぶりね、愛実の母です。お元気かしら?』


「え? あ…はい! お、お久しぶりです」


『娘が毎回お世話になってしまって、申し訳ありませんねぇ~』


「へ? あ、いや……」


『それじゃあ、よろしくお願いします』


「は、はい! ……あ……」


 俺は思わず返事をしてしまった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る