第26話



「なぁ……」


「なんですか?」


「お前と愛実ちゃん、何かあった?」


「………まぁ……ちょっと……」


 愛実ちゃんとファミレスで話しをしてから三日が経っていた。

 高井さんはそんな俺と愛実ちゃんの様子の変化に気がつき、俺に尋ねてきた。


「喧嘩か?」


「まぁ……なんていうか……振られました」


「はぁ? 告白してきたのはあっちだろ?」


「まぁ……」


「何があった? 言ってみろ、力になるぞ」


「……実は……」


 俺はこの間のファミレスでの話しを高井さんにした。

 

「はぁーなるほどねぇ~」


「はい……まぁそう言うことです……」


「それはお前が悪いな」


「え? 俺ですか?」


「当たり前だ。同じ状況みたいな子がいたら、共感して強力したくなっちまうだろ? そんなあの子に……なんとか諦めるように説得してくれなんて言わせるか?」


「……まぁ……言われてみれば……」


「だろ? 振られる悲しさをあの子は知ってるんだぞ? お前に一度振られたみたいなもんだからな」


「そ、そうですけど……」


「まぁ……好きでもない相手と付き合えなんて言わないけど……少しは相手の気持ちを考えろ、多分だけど……愛実ちゃん相当傷ついたと思うぞ?」


「………」


 高井さんからの言葉は俺の胸に刺さった。

 そうだよなぁ……高井さんの言うとおりだよなぁ……。

 改めてそう言われると、俺はなんで安岡からのお願いを聞いてしまったのだろう?

 愛実ちゃんが片桐さんの友人だと知った時点で断るべきだった……。


「はぁ……俺……何やってるんだろ……」


「分かったらさっさと謝ってこい」


「そうですね……」


 高井さんに言われ、俺は愛実ちゃんに謝ることにした。

 考えてみれば、あの子と喧嘩をしていた数日間、いつも付きまとってくる愛実ちゃんが、俺にまったく話し掛けなかった。

 そんなたった数日間だったが、俺はその数日間がすさまじく暇だった。


「なんだかんだ……あの子が居ないとつまらないな……」





「愛実?」


「……え?」


「もう、どうしたの? ぼーっとして」


「あ、いや……ちょっと考え事……」


 私、石川愛実は友人の優香里に話しかけらえるまで、数日前のファミレスの事をずっと考えていた。

 

「それって、岬さんの事?」


「なんで分かるの!?」


「いや、アンタが悩むのなんて岬さんの事以外ないでしょ?」


「うっ……そ、そんなこと無いもん……」


「何? 喧嘩でもした?」


「優香里……アンタエスパー? 私の心が読めるの?」


「……アンタが考えることなんて、岬さんの事以外にあるの?」


 呆れながら答える友人。

 失礼な!

 私が四六時中次郎さんの事を考えているなんて……そんな事……あるかも……。


「はぁ……実はね……」


 私は我慢できずに優香里にこの間のファミレスであった出来事を話した。


「へぇー、そんな事を言われたの?」


「うん……酷いと思わない! 諦めろなんて私は簡単に言えないよ!」


「そりゃあアンタも同じような状況だもんね……」


「いや……そ、それが……」


「ん?」


 私は次郎さんを振った事を優香里に話した。

「……いや、アンタ何やってるの?」


「うん……私も家に帰ってそう思った……」


「しかも振られてるのアンタなのに」


「ホント……私何を言ってたんだか……」


「え? 何? まさか本当に諦めるつもりじゃないわよね?」


「うん……なんとか仲直りして………」


「仲直りして?」


「一緒にお風呂に入りたい……」


「何段階飛び越すつもりよ……」


 この二日間、私は次郎さんにまったく連絡を取らなかった。

 もちろん次郎さんからも連絡は来ない。

 たかが二日、そんな状態が続いただけなのに……。


「あぁ……次郎さんに会いたい……」


「あ、ダメだこれ……重傷だ……」


「だって! 二日もまともに会話してないのよ!!」


「たかだか二日でしょ?」


「電話もしてないのよ!」


「だから、たかだか二日でしょ?」


「はぁ……次郎さん……」


「………岬さんに他の女が出来たら、自殺しそうな勢いね……」


 はぁ……本当にしそうだから怖い……。

 今こうしている間にも、次郎さんは他の女性と仲良くしているかもしれない。

 はぁ……なんで私はあんなことを……。


「それで優美はどうなったの?」


「あぁ……あの子も今だにアタック続けてるみたい」


「あの子も凄いわね……そんなにカッコイイのかしら?」


「そう言えば優美は?」


「また告白、今日はバスケ部の中谷君」


「あぁ、あの顔だけ良い人?」


「顔だけって……」


「だって、私もあの人知ってるけど……なんか文化部の男子を見下してる感じがして嫌なのよね……運動してるから偉い訳でもないのに……」


「まぁ、確かにそう言うとこあるかもね……てか、アンタって結構毒舌よね」


「そうかしら? まぁ、優美はどうせ断るでしょ? 好きな人が他に居るし……少ししたら戻ってくるかしら?」


「そうね、そろそろ戻ってくる頃だと思うけど? 何? 何か話しでもあるの?」


「うん、作戦会議!」


「あぁ……なんかアンタが言うと、嫌な予感しかしない……」


 そんな話しをしていると、優美が教室に帰ってきた。

 続いて、なんだかしょんぼりした様子の中谷君も帰ってきた。


「あ、帰ってきた!」


 私は帰ってきた優美の元に行き、声を掛ける。


「優美、ちょっと良い?」


「え? あぁ、愛実……」


 彼女、片桐優美はスタイルも良いし、容姿も整っていて、女性の私でも可愛いと思ってしまうほどの美少女だ。

 長い黒髪は腰の方まで伸びており、瞳は大きくてぱっちりしている。

 

「また告白されてたの? しかも中谷君」


「そう、私あいつ嫌いなのよ……だからストレートに言ってやったの」


「なんて?」


「ウジ虫と付き合う気は無いって」


「わぁ……辛辣……」


 私が毒舌と言うのならば、優美は一体どうなるのだろうか? 

 私はそんな事を考えながら、優美に思い人とのその後を尋ねる。


「で、バイト先の先輩さんとはどうなの?」


「もうダメよ……全然ダメ……あの人には色気が通じなかったわ……」


「うーん……お色気作戦で既成事実作戦は失敗ね……」


「いや、何? その絶対に成功しなさそうな名前の作戦……」


 私がそう言うと、優香里は呆れた様子で静かにそう言った。

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