第23話
*
正月が明けて、一月も終わろうとしていたとある日、俺は大学で友達に声を掛けられた。
「次郎!」
「ん?」
話し掛けてきたのは、大学に入って仲良くなった安岡だった。
安岡は落ち着いていて、どことなく大人の雰囲気がある奴だ。
あまり話し掛けてくることの無かった安岡が俺に何の用だろうか?
「あのさ、実は少し頼みたい事があるんだけど良いかな?」
「頼み? 安岡が頼み事なんて珍しいな」
「うん……実はちょっと困った事になってて……」
「困った事?」
「うん、立ち話もなんだし、どこか喫茶店にでも行かないか?」
安岡に言われるまま、俺は安岡と共に喫茶店にやってきた。
安岡と俺は互いにアイスコーヒーを注文し、話しを始めた。
「実は……バイト先の女の子から告白されて……」
「へぇー良かったじゃん」
「いや……僕はそんな気一切ないから断ったんだけど……」
「だけど?」
「それ以降、ずっとアプローチされてて……」
「困ってると?」
「うん………」
「ふーん……で、その子はどんな子なんだ?」
「えっと……まだ高校生なんだけど……」
ん?
「とにかく積極的なんだ、何度もデートに誘ってきたり、キスしようとしてきたり……」
んん??
「な、なるほど……それで困っていると……」
あれ?
なんかその話し……どこかで聞いたような?
なんてことを俺が思っていると、安岡は話しを続けてきた。
「それで、その子の友達がどうやら次郎がバイトしているハンバーガーショップに居るらしいんだ」
「ふむふむ……」
えっと……確かうちのバイトで高校生は確か三人だな……一体誰の友達だろ?
「そこで、次郎に頼みがあるんだ」
「頼み?」
「次郎のとこでバイトしている友達から、俺を諦めるように説得して欲しいんだ」
「あぁ、それでその話を俺がバイトの時にその友達にすれば良いんだな」
「そう! 友達からの説得なら諦めてくれるかもと思って」
「あぁ、別に構わないけど、その友達ってなんて言う子?」
このとき、俺は簡単に良いよなんて言ってしまった自分を呪った。
まさかあんな面倒な事になるなんて予想もしていなかったからだ。
*
「愛実ちゃん……」
「はい! なんですか?」
安岡に話しを聞いた後、俺はバイトに向かい愛実ちゃんに話しをしていた。
「あのさ……愛実ちゃんの友達で、片桐優美(かたぎりゆみ)ちゃんって子が居ると思うんだけど……」
そう、安岡が言っていた、安岡のバイト先の女子高生の友達とは、愛実ちゃんだったのだ。
「え!? なんで次郎さんが優美の事知ってるんですか!!」
「いや……その子と俺の友達が同じバイト先でさ……友達からその子の事で相談を受けて……」
「相談ですか? 優美が何か?」
俺は安岡が言っていた事を愛実ちゃんにも話した。
「なるほど……優美が……それは迷惑ですね!」
「愛実ちゃん自分の胸に手を当てて考えてごらん……君も変わらないと思うよ」
肩を落としながら、俺は愛実ちゃんにそう言い話しを続ける。
「なんとか、愛実ちゃんからその子に言ってくれないか? 安岡も困ってるみたいだし」
「うーん……分かりました、私から優美に言ってみます」
「そっか、ありがとう。頼むよ」
「でも、優美もやり過ぎですよね、そんな事したら相手の人も困っちゃいますよ」
「うん、君もあんまり変わらない事を俺にやってるからね」
笑顔で話す愛実ちゃんにそう言い、この話しは終わった。
これで安岡からの頼みはこなしたし、俺の役目はこれで終了。
そう俺は思っていたのだが……。
*
「次郎、なんかより積極的になったんだけど……」
「………何があった?」
またしても俺は安岡と共に喫茶店に来ていた。
俺が愛実ちゃんに安岡の話しをして一週間後、安岡は一週間前よりもやつれた様子で俺に話しを掛けてきた。
「もう俺は女子高生が怖い……」
「いや、本当に何があったんだよ」
「次郎から色々やって貰った後、あの子の俺に対するアプローチがどんどんエスカレートしてきて……」
「そ、そうなのか?」
「この前は家に来たよ……」
「あぁ……そ、そうか……」
この話を聞いた時、俺はふと愛実ちゃんの事を考えた。
もしかしたら、片桐さんに同情した愛実ちゃんが、恋のアドバイスをしているのでは無いのだろうか?
俺はそんな事を考えながら安岡の話しを聞いていた。
「はぁ……俺はどうしたら良いんだろう……」
「えっと……ちなみに安岡はなんでその子と付き合わないの?」
「え? それはまぁ……言い方は悪いかもしれないけど好きじゃ無いからだよ」
この話をしている時、俺は何となく自分にも同じ質問をしている気分だった。
そして、自然と俺は安岡にまた質問をしていた。
「なんで好きじゃないんだ?」
「え? いや……そう言われても分からないけど……普通にバイト先の後輩だと思ってたし……なんていうか……恋愛感情が無いっていうか……」
「そうなんだよなぁ………」
「え?」
「あ、いや……何でも無いよ」
思わず安岡の意見に同意してしまった。
なんというか、俺と安岡の今の立ち位置はかなり似ている。
そうなんだよなぁ……好きじゃ無いんだよなぁ……でも、嫌いって訳じゃなくて、恋愛感情が無いんだよなぁ……。
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