第23話


 正月が明けて、一月も終わろうとしていたとある日、俺は大学で友達に声を掛けられた。

「次郎!」


「ん?」


 話し掛けてきたのは、大学に入って仲良くなった安岡だった。

 安岡は落ち着いていて、どことなく大人の雰囲気がある奴だ。

 あまり話し掛けてくることの無かった安岡が俺に何の用だろうか?


「あのさ、実は少し頼みたい事があるんだけど良いかな?」


「頼み? 安岡が頼み事なんて珍しいな」


「うん……実はちょっと困った事になってて……」


「困った事?」


「うん、立ち話もなんだし、どこか喫茶店にでも行かないか?」


 安岡に言われるまま、俺は安岡と共に喫茶店にやってきた。

 安岡と俺は互いにアイスコーヒーを注文し、話しを始めた。


「実は……バイト先の女の子から告白されて……」


「へぇー良かったじゃん」


「いや……僕はそんな気一切ないから断ったんだけど……」


「だけど?」


「それ以降、ずっとアプローチされてて……」


「困ってると?」


「うん………」


「ふーん……で、その子はどんな子なんだ?」


「えっと……まだ高校生なんだけど……」


 ん?


「とにかく積極的なんだ、何度もデートに誘ってきたり、キスしようとしてきたり……」


 んん??


「な、なるほど……それで困っていると……」


 あれ?

 なんかその話し……どこかで聞いたような?

 なんてことを俺が思っていると、安岡は話しを続けてきた。


「それで、その子の友達がどうやら次郎がバイトしているハンバーガーショップに居るらしいんだ」


「ふむふむ……」


 えっと……確かうちのバイトで高校生は確か三人だな……一体誰の友達だろ?


「そこで、次郎に頼みがあるんだ」


「頼み?」


「次郎のとこでバイトしている友達から、俺を諦めるように説得して欲しいんだ」


「あぁ、それでその話を俺がバイトの時にその友達にすれば良いんだな」


「そう! 友達からの説得なら諦めてくれるかもと思って」


「あぁ、別に構わないけど、その友達ってなんて言う子?」


 このとき、俺は簡単に良いよなんて言ってしまった自分を呪った。

 まさかあんな面倒な事になるなんて予想もしていなかったからだ。





「愛実ちゃん……」


「はい! なんですか?」


 安岡に話しを聞いた後、俺はバイトに向かい愛実ちゃんに話しをしていた。


「あのさ……愛実ちゃんの友達で、片桐優美(かたぎりゆみ)ちゃんって子が居ると思うんだけど……」


 そう、安岡が言っていた、安岡のバイト先の女子高生の友達とは、愛実ちゃんだったのだ。


「え!? なんで次郎さんが優美の事知ってるんですか!!」


「いや……その子と俺の友達が同じバイト先でさ……友達からその子の事で相談を受けて……」


「相談ですか? 優美が何か?」


 俺は安岡が言っていた事を愛実ちゃんにも話した。

 

「なるほど……優美が……それは迷惑ですね!」


「愛実ちゃん自分の胸に手を当てて考えてごらん……君も変わらないと思うよ」


 肩を落としながら、俺は愛実ちゃんにそう言い話しを続ける。


「なんとか、愛実ちゃんからその子に言ってくれないか? 安岡も困ってるみたいだし」


「うーん……分かりました、私から優美に言ってみます」


「そっか、ありがとう。頼むよ」


「でも、優美もやり過ぎですよね、そんな事したら相手の人も困っちゃいますよ」


「うん、君もあんまり変わらない事を俺にやってるからね」


 笑顔で話す愛実ちゃんにそう言い、この話しは終わった。

 これで安岡からの頼みはこなしたし、俺の役目はこれで終了。

 そう俺は思っていたのだが……。





「次郎、なんかより積極的になったんだけど……」


「………何があった?」


 またしても俺は安岡と共に喫茶店に来ていた。

 俺が愛実ちゃんに安岡の話しをして一週間後、安岡は一週間前よりもやつれた様子で俺に話しを掛けてきた。


「もう俺は女子高生が怖い……」


「いや、本当に何があったんだよ」


「次郎から色々やって貰った後、あの子の俺に対するアプローチがどんどんエスカレートしてきて……」


「そ、そうなのか?」


「この前は家に来たよ……」


「あぁ……そ、そうか……」


 この話を聞いた時、俺はふと愛実ちゃんの事を考えた。

 もしかしたら、片桐さんに同情した愛実ちゃんが、恋のアドバイスをしているのでは無いのだろうか?

 俺はそんな事を考えながら安岡の話しを聞いていた。


「はぁ……俺はどうしたら良いんだろう……」


「えっと……ちなみに安岡はなんでその子と付き合わないの?」


「え? それはまぁ……言い方は悪いかもしれないけど好きじゃ無いからだよ」


 この話をしている時、俺は何となく自分にも同じ質問をしている気分だった。

 そして、自然と俺は安岡にまた質問をしていた。


「なんで好きじゃないんだ?」


「え? いや……そう言われても分からないけど……普通にバイト先の後輩だと思ってたし……なんていうか……恋愛感情が無いっていうか……」


「そうなんだよなぁ………」


「え?」


「あ、いや……何でも無いよ」


 思わず安岡の意見に同意してしまった。

 なんというか、俺と安岡の今の立ち位置はかなり似ている。

 そうなんだよなぁ……好きじゃ無いんだよなぁ……でも、嫌いって訳じゃなくて、恋愛感情が無いんだよなぁ……。

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