夏が始まる!②

7月に入った。俺たち高校生は期末テストの地獄から解放されたばかりであったが、期末テストの成績で一喜一憂する間もなく、全国高等学校野球選手権。通称夏の甲子園の東東京大会が、いよいよ始まるのだ。




梅雨明けはもう少し先になりそうだが、雲ひとつない青空の神宮球場。この日も最高気温が35度に達することが予想され、朝から灼熱の太陽が降り注いでいた。そして、この神宮球場で東西合同で行われる開会式で、どこか懐かしい声が聞こえてきたのだ。




「お、相川じゃねーか。1年で背番号6って流石だな」



声がして振り返ると、中学時代のチームメイトだった永井友春ながいともはるの姿があった。目大三めだいさん高のユニフォームに袖を通している。




「お前こそ凄いよ永井。目大三でもうベンチ入りかよ」


「ああ。お前と違って、レギュラーは届かなかったけどな」




振り向いて背番号20を見せる。




「どうだ?渋学のチーム状況は」


「なんとか頑張れそうだよ。筒井つついさんもいいピッチングしてるし、他の投手だって筒井さんに引けを取らない」


「そうか。よかったな。俺は西だから、甲子園で待ってるぞ」




超社交辞令だよな。渋学の現有戦力では、優勝するには万馬券が当たるレベルの奇跡が必要だと思うが、戦う前から諦めるのは嫌なものである。




「そうだな。甲子園で会おう」



俺は永井にこう言ったところで、永井が目大三の大倉おおくら監督に何か呼び出されたため、永井とはここで別れる。そして・・・




「噂には聞いてたが、1年で背番号6って流石だな。相川」




多摩川たまがわシニアでエースだった中村裕樹なかむらゆうきとも出会した。ちなみに中村は和瀬田わせた実業のユニフォームに袖を通している。背番号は18番だ。




「さっき永井と会った。あいつ20番付けてたわ。つーか、中村もベンチ入りかよ」


「ああ。うちは投手不足みたいだからな。春大が終わったらすぐ監督からお声がかかったよ」


「そうか。俺は東でお前は西だ。絶対甲子園行けよな」


「ああ、お前こそ甲子園行けよな」




中村との会話を終えると、いよいよ出場校の入場行進が始まる。東西合わせて約250校。俺は刻々と迫ってくる渋学の出番を待った。そして司会の『渋谷しぶや学院』というアナウンスが発表されると、俺たち渋学ナインはグラウンドに降り立った。そして最後の出場校が登場するまで、グラウンドで整列する。じっとしていると汗が止まらない。そして最後の出場校が登場すると、選手宣誓が始まる。今年の選手宣誓は、西地区の強豪である東西大菅野とうざいだいすがのの主将である今泉いまいずみさん。そして今泉さんの選手宣誓が終わると、出場校の選手は順に退場していった。




◇ ◇ ◇




そして迎えた1回戦。相手は渋谷しぶや商業。1年生が4人加入し、なんとか9人ギリギリで夏に挑む都立高校だ。ちなみに渋学のスタメンは以下の通り。




1(二)高橋

2(三)中島

3(中)佐々木

4(捕)辰巳

5(左)林

6(一)鈴木

7(右)長谷川

8(遊)相川

9(投)筒井




春の大会後、しばらく試行錯誤していた打線だったが、6月に入ってからの練習試合は、このスタメンがベストメンバーになっていた。そして俺の高校野球初戦は、8番・ショートでのスタメン出場であった。




試合の方は、1回表に8点を先制した渋谷学院が、20対0の5回コールドで下し、無事2回戦進出を決めた。投げては筒井さんが5回参考ながら完全試合を達成し、打っては辰巳さんが3本塁打を放つ暴れっぷり。そして俺も5打数4安打で、記念すべき高校初打席は満塁ホームランというおまけ付きであった。






続く2回戦。相手は都立赤坂あかさか高校。毎年何人もの生徒が東大に進学する超進学校でもある。渋学のスタメンは、先発投手が生田さんであること以外は1回戦と同様。


試合の方は渋学が7対2で勝利し、3回戦進出。シード校である帝道ていどう高校と対戦することになった。


投手陣は生田さんが1回表に2点を失うものの、その後は立ち直り、6回からは野中さんが、8回からは牧野さんがそれぞれ2イニングを無失点に抑えた。打線の方は赤坂高校の2年生エース・中井なかいさんに序盤は抑えられるも、5回に俺の2点タイムリーで同点となり、6回には林さんの3ランホームランで勝ち越しに成功。8回には辰巳さんが2点タイムリーを決め、試合を決定付けた。




◇ ◇ ◇




2回戦の試合後、麻衣さんと沙織さんからLINEが届いていた。ちなみに大会期間中はまた学校に泊まり込み、合宿生活だ。




『優、今日の試合見たで!』


『優の頑張ってる姿、めっちゃカッコよかった!』




俺は2人からのLINEを確認して『ありがとうございます』と返事をする。そして、




麻衣さん『次は強豪やけど、全力を出し切れ!赤坂ガールズのみんなで応援しとるで!』


沙織さん『優が甲子園に出るところ、見てみたいなぁ・・・』




という言葉が返ってきたのは言うまでもない。

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