第十四町人 トムソンさん

お掃除好きのトムソンさん

お庭の木々の落ち葉はらい

地面を箒で撫でて回れば

葉っぱも元気に飛び踊る


お嬢さん方二人で走る

お庭のトムソンさんのもと

息も絶え絶え話を聞けば

誰かに追われる真っ最中


「誰もいないの貴方が頼り、どうか助けて紳士の貴方」

「誰か知らぬが乙女の頼み、叶えてやるが紳士の務め」


箒、一振り、落ちた葉舞って

箒、二振り、浮いた葉つどい

箒、三振り、寄った葉、壁に


お嬢さん方、葉っぱへだてて感謝の言葉

貴族が多数、やってくるなり憤怒の恫喝


「貧しき庭師よ、妖精達はどこ行った?あれらを娶るは我らの権利」

「富める御仁よ、幻でも見なさったか?時に目を瞑るも渡世の真理」


貴族の方々腹立てて、まあるく太った腹揺らす

真の紳士は動じずに、にこやか箒で葉を散らす


「小癪な奴め。見るもの、聞くもの、欲しいもの、それは我らが決めるのだ」

「強情な人だ。見れぬも、聞けぬも、うしなうも、それは森羅の気まぐれさ」


遂に貴族は我慢の限界、怪しき葉の壁、打ち壊す

既に紳士の手腕が救済、優しき葉の壁、立て直す


お嬢さん方、葉の壁に導かれ、逃げ道だけを笑って歩む

哀れな貴族、葉の壁に遮られ、出る道知れず唸って迷う


紳士が舞って、乙女は駆けて、やがて貴族は音を上げる


「やんぬるかな、化かされ過ぎて、馬鹿らしい」

「くやしいかな、追うては、逃げられ、怒っては、笑われ」

「野蛮なるかな、草の根分けての逃避行、所詮、民草と我らは釣り合わん」


葉の壁より這い出た貴族、

糸は解れて、ボタンは取れて、体中が泥まみれ

外面にはみすぼらしいが、内面には相応しい

鈍重な体と心を引き摺って、猛獣の如き野暮は去る


「危機は去ったぞ、よく走ったぞ、今出してあげよう、乙女達」


トムソンさんが箒で軽く、葉の壁ちょいとつついたならば、

ぶわりと迷宮、一瞬の夢、後は葉っぱの大吹雪


ところが乙女の姿なし、二人の影も形なし

真に妖精だったかと、驚く紳士に風の声


「心の優しき救いに礼を、汝の尊き未来に花を」


風が、一吹き、木々に蕾

風が、二吹き、蕾が花に

風が、三吹き、花は満開


庭に虹咲き、人々驚く


「やあこれは素晴らしい!トムソンさん、ここで過ごさせてくれないか?」


どんどん集まる人々が、妖精の春に酔いしれる

トムソンさんの優しさが妖精の祝福呼び寄せる


紳士は慈愛と箒を抱えている

彼こそ幸福で賢明な紳士なり

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