第十一町人 ハンナちゃんとクレアちゃん

 ハンナちゃんは砂糖のお菓子。

 綿飴の髪と飴玉の目とグミの舌。

 クレープ生地の皮膚の下、ジュースの血が流れてる。


 クレアちゃんは色つき硝子。

 赤、青、黄色、緑、紫、

 橙、桃色、混じり合い。

 太陽浴びれば、虹色模様の反射光。


 ハンナちゃんは優しい子。

 お菓子を買えない子供達に自分の体を差し出した。

 甘くておいしいハンナちゃん、いつも回りに人だかり。


 クレアちゃんは静かな子。

 絵描きや詩人が褒め称え、絵画や詩歌を捧げてく。

 脆くてきれいなクレアちゃん、いつも回りに人だかり。


 やがてバラバラのハンナちゃん、あちこち食べられ道の上。

 それをキラキラのクレアちゃん、まじまじ見つめて震え声。


「薄情過ぎるわ、冷淡過ぎるわ。蟻のように群がって、礼の一つも無いなんて」

「構わないわ、これでいいわ。嫌われずに済むのなら、礼は一つも無くていい」


「そんなの私は見てられない。綺麗な世界を見てちょうだい」


 砕けたハンナちゃんを拾い上げ、クレアちゃんは自分の頭を叩き割る。

 割れた硝子の頭の中に、お菓子の欠片を詰め込んで、

 やがてクレアちゃんは踊り出す。

 くるくる、くるくる、淡い光と甘い匂いを振りまいて。


「ああ、なんて美しい景色かしら、なんて優しい心かしら。」


 幸せなハンナちゃん、慈悲深きクレアちゃん。


 町の人々やってきた。


「甘いお菓子はどこにある?」

「美しい硝子はどうしたの?」


「私たちはここにいるわ。一つになって美しいものを見続けるの」


 それ聞き皆は、落胆し、激怒し、石を投げつける。

 心と体の空腹が、暴力の豪雨を生み出して、

 哀れ、二人は粉々に。


 お菓子と硝子、混ざり合い、

 最早誰も手を付けない。

 美しい残骸と、醜い罵声、

 そして嵐は過ぎ去って。


 ハンナちゃんとクレアちゃん。

 誰も描けぬ、味わえぬ。

 甘くて綺麗な、永遠の二人。

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