第42話 カプセル

まーちゃんは、アムールトラが来なくなってから急速に重篤化していた。もはや1日のほとんどを意識のないまま過ごしているという。

「なぜ会えないんですか」

アムールトラは歯をむき出し、今にも襲い掛かりそうな空気を撒き散らしている。

「無論、君のためだ。これからこの島に残る君を、人間の犠牲にするわけにはいかない」

医師は、眼鏡の奥の目を伏せて答えた。

「人間、じゃない。友達、です」

「友達って、言ってくれるのね、あいちゃん」

まーちゃんの母親が嬉しそうな笑顔を向ける。だが、その目は腫れていた。

「もちろんですよ、まーちゃんママ!それに、犠牲だなんて思ってません」

アムールトラの目には、決意が宿っている。

「会わせてくれますね」

「でも」

「まーちゃんが回復すれば、本土に帰れるかも知れません。そしたら、ペットセラピーを受けて…」

「残念だが、それは期待できない」

医師はスクリーンに映し出されるグラフを見る。

「諸島からの撤退は、もう期限が区切られている。それまでに動かせるほどの回復は、いくら相性のいいアムールトラさんに手伝ってもらっても望めないだろう」

医師はまーちゃんの母親に向き直る。

「ひとつ、決断していただきたい。まーちゃんをこのまま本土に連れ帰り、幾ばくかの余生を家族で共に過ごすか」

余生、という言葉が母親の肩に重くのしかかった様子が、アムールトラにもわかる。

「または、お子さんをこの島に残す。回復にどれほどの時間がかかるかはわかりません。一か月かもしれない。数年、数十年かもしれない。もう二度とお子さんには会えないかもしれない。けれど病気が治る希望もある」

まーちゃんの母親は、床を見下ろすばかりだ。

「治療法もあります。巻上先生が開発に携わった新型サンドスターカプセルがあれば、患者とフレンズを一緒に入れることで、コールドスリープのような…ああ、巻上先生はサンドスタースリープと呼んでいます。回復するまで、フレンズと共に深く、深く眠るのです」

まーちゃんの母親は、すがるような眼差しで、アムールトラを見た。

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