第29話 検査、観測、スケッチブック
アムールトラとまーちゃんの話は尽きることがなかった。幼少期に別れてから、五年の間にあった様々なこと。出会い、仲良くなったフレンズのこと。病気のこと。アムールトラも、訓練や出動のことを、話せる範囲で、多少子供向けに脚色しながら話す。
「まーちゃんが、こんなに起きていられるなんてね」
見回りに来た看護師が目を丸くする。
「きっと?あいちゃんが来てくれたからだよ。この前だって、あいちゃんがいた時は起きられなかったけど、そのあとずっと起きてられたし。しばらくは調子良かったんだよ」
「そうなんだ」
「ええ。びっくりするくらい元気になって」
「でも今は無菌室なんだね」
「あいちゃんが、なかなか来てくれないからだよ!あいちゃんがたくさん来てくれたら、すぐに治っちゃうのに!」
『そろそろ、いいかな』
巻上から通信が入る。今までの会話も全て、モニターしていたはずだ。アムールトラは、今まで待ってくれたことに心の中で感謝した。
採血やバイタルは病院でとっているから、そのデータをもらうことになっている。今日アムールトラが採取するのは、サンドスター関連の物質や電磁波だ。巻上はサンドスターを宇宙規模で普遍的なダークマターだと考えているようだ。非常に希薄で検出が困難だから、これまで物質として認識されてこなかっただけだ、と巻上は言う。今回巻上がアムールトラに持たせたのは、彼女が開発した、携帯可能なサンドスター検出器だ。とはいえ大きな荷物を担ぐ羽目になったのだが。
「痛かったり、怖かったりはしない…らしいよ」
「こ、怖くなんかないよ!」
器具をセットしながらアムールトラは笑いかける。まーちゃんは少し不安そうだ。
低い唸りを上げて、器具が観測を始める。観測データは、逐次巻上の元に送られている。
『おおお、来た来た。えっと…むふぅ。やっぱり、やっぱりそうか、そうなのか』
巻上の独り言は大きい。
「何かわかったんですか」
巻上からの返事はない。思考の海に潜ってしまったようだ。アムールトラは諦めて、まーちゃんとの会話に戻った。どうせ一次データは解析しなければ結論は出ない、らしい。それでも巻上の興奮振りから察するに、仮説を裏付けるデータなのか。
「研究、とやらが治療に役立つならいいけど」
「なに?」
「ううん、なんでもない。それより、何か欲しいものはない?」
まーちゃんは、迷わず答えた。
「色鉛筆と、スケッチブック!」
どうやら、絵が好きなのは変わらないようだ。滅菌したものなら大丈夫だと看護師に確認してから、アムールトラは次の時に持ってくることを約束した。
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