第7話 よっし!次回から行動開始!!(遅れてごめんなさい

「―――。以上が周囲二キロを調査した結果です」


報告を終えたプエラがうやうやしく礼をする。


「報告ご苦労様プエラ。さて、私はこの報告によって緊急性はないと判断。厳戒態勢を解除します。」


Tesテス


  もともと厳戒態勢を敷いた理由が何か報告などがあったわけでもなく私の勘一つなので恥ずかしさを感じる。だが一つ厳戒態勢を敷いてよかったことがある。


「しかし、外部転送装置ポータルの位置が山岳地帯から草原に代わっていたのは十分に異常です。そのため警戒態勢はしばらく維持、三銃士は常に二人が待機するローテーションに変更。聖なる獅子女ホーリースフィンクスも待機のままにしておいてください」


 十二人の守護者トランプがうなずきを返した。


「では、これにて今回の謁見を終了します。クダツとクーモンドはノンソーロム神殿内の警備の見直しを。今でも厳重だと思いますが侵入してくる相手が百レベル以上の敵であると想定しなさい。数は従来の十二割で。継続的な侵攻も想定しできる限りPOPするモンスターで迎撃を。最終防衛ラインは六階とします」


 それと、と続ける。


「リーチナーとプエラ、イリエボ、エルヴァージュは残ってください」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 引き留めた四人以外のトランプが退出しても私はしばらく何も言わなかった。何となく思ったのだ。もし、上司である私が引き止め、何も言わなかったらどのような反応をするのかと。

 もし私なら不安になるだろう。上司に呼ばれたとなれば真っ先に思いつくのは叱責だ。何も言われなけば相手がとても怒っているのだろうと考える。その時間が長ければ長いほど怒っているのだろうと考え委縮し、動けなくなる。

 それは会社でも、その前に通っていた学校でも同じだった。

 事実、エルヴァージュはその顔を不安に染めうつむき気味だ。

 プエラは平気そうな顔をしているが右手の親指と人差し指でスカートのフリルをつまんでいる。この動作をしているときは不安や恐怖を感じているときの動作だった。

 情報源はもちろんユグドラシル時代に読んだプエラの設定からだ。

 残りの二人は真逆でとても落ち着いていた。

 リーチナーは何も心配することはないと平然とし、さりげなく私の手前に立って、他の三人と向かい合っていた。

 こちらに思いっきり背を向けているが気にしない。私の前に立ち、壁になるのが今の彼女の役目だ。

 イリエボはなぜか訳知り顔でにやにやしている。他のキャラがやったらイラつきそうなことだがイリエボがやったならかわいい魅力的な表情に見える。

 全くこいつめ、これでも男なんですよ!


「プエラ。ここなら問題ありませんよ」


「えっ、あの。どうゆうことですか?」


「プエラ、あなた外界調査の時何か言いかけてたでしょう?」


 プエラは先ほどなにか言いよどんだところがあった。しかし、あくまで私が命令したのは外界調査の報告。そのため言いたいことを押し殺していた節があった。

 自分の意見を出すことがはばかられるギルドは私の望むギルドではない。

 もしもその言いかけた意見が私たちの命運を分けるかもしれない。だから、


「言いたいことは言いなさいプエラ。それがなんであれ」


「・・・・・Tesテスタメントっ」


 力強くうなずくプエラ。残る三人はそれを見て優しくうなずく。


「では、追加報告です。半径二キロには先ほども報告した通り脅威、もしくは障害となる生物はいませんでした。飛行生物の類も目視できず、地質からか植物も大して育っていないことから今後自然に生物が住み着く可能性も低いと思われます。」


 ここまでは先ほど聞いた内容と変わらない。当然プエラはしかし、と続ける。


「どのくらいはわかりませんが長距離と言えない範囲に何かしらの集落がある可能性があります」


「集落?先ほどの報告では生活が厳しそうな印象でしたが?」


Tesテス。その通りです。ですが先ほども申し上げましたがそれはあくまで半径二キロに限った話です。調査しているときの空気、その空気があの荒涼とした場には合っていませんでした。外部転送装置ポータルの付近の空気は乾燥しきっておりましたが外側に近づくほど空気に水分が含まれるようになりました。そのためあそらく半径五キロ。その中に川や湖があると思われます。水が近くにあるということは生物が安定して生存できる条件です。そのため何かしらの集落。もしくは群ですね。それらがあると予想いたしました」


 ふむ。と相槌を打つ。


「空気中の水分ってそうはっきりわかるものなのですか?」


 少なくとも私は現実あちら側で空気中の水分量の変化を呼吸で理解したことはない。

 外野に意見を求める。


「いや~、ボクは魔法詠唱者マジックキャスターだし、そういうのは埒外かな?」


 頬をかくイリエボ。


「わたしは大きな変化なら何とかわかりますけどさすがに数キロ先の水による水分の変化なんてわかりませんよ~。変化といっても小数点単位だと思いますけど、それってほぼないと一緒ですよ。けど、私のペットの中にはわかる子もいるかもしれませんね」


 首をかしげるエルヴァージュ。


「私もそこまで高等なことはできませんね。五百メートル以内なら肌でわかるかもしれませんがそこまで近いなら視界で確認できますから無意味ですね」


 顔をこちらに向けるリーチナー。

 つまりは


「プエラ以外水分量云々うんぬんに関することはわからない。ということですか」


Tesテスタメント


「そうなりますね」


「おっしゃる通りです」


 プエラの顔色が先ほどに比べて悪くなる。それも当然か。

 意見の理由が自分の感覚であり、さらにはその感覚は自分のみが持つものと来た。下手をしなくても虚偽の報告をしたと判断されても仕方ない。


「わかりました」


 私は、


「イリエボ。プエラの予想を事実と仮定し今後の行動を考えなさい」


 家族を信じる。


Tesテスタメント


「あ、ありがとうございます、ミゾン様」


 深く頭を下げられながら少々まずいなと思った。

 今のところあってきた家族NPCは指示した通りに働いてくれる。それは私が行ったことを正確にこなす、ということでありとても信頼がおける、ということでもある。

 が、裏を返せば働かないのだ。この追加報告でそれが示された。今回は水場があることの示唆、それによる集団生活している生物の可能性で済んだがもし水場ではなく強力なモンスターだったら?悪意あるプレイヤー集団の拠点があったら?

 このままにしておくにはリスクが高すぎる。


「感謝はしなくてかまいません。それより何故初めの報告でこの情報を出さなかったのですか?」


「それはあの場で求められていたのが“外部転送装置ポータルを中心とした半径二キロの報告”であったからです。それに関係しない報告は時間の無駄と判断しました」


 やはり、「しか」だったか。


「プエラ、それは間違いです。他の三名も聞きなさい。私は半径二キロの調査を命じました。しかしそれが目的ではありません。あくまで目的です。ではイリエボ。目的は何ですか?」


「う~んとね、周辺環境の把握じゃないのは確かだよね。半径二キロを調べることが目的じゃないってことだからね。だとしたら可能性は“安全確保”ぐらいしか思いつきません」


Tesテスタメント。続きをどうぞ」


Tesテス。ミゾン様の目的は“安全確保”。ならば“外部転送装置ポータルの周囲二キロの調査”は手段。つまりプエラは先ほどの一回目の報告で安全確保にかかわるすべてのことを報告しなければいけなかった。なのにそれを怠った。それが間違いですね?ミゾン様」


Tesテス。お見事です」


目を細め、口角を緩やかに上げ出来るだけ優しい笑みをイメージし、顔を動かす。


「プエラ。はい感想」


「つ、次からは気を付けます・・・!」


 あ、ダメだこれ。私を怒ってると思ってるやつだ~。

 怒りの笑顔って何回か見たことあるけど怖い人のは本当に怖いからな~。今は何を言っても攻めの言葉にしか聞こえないだろう。だから「怒ってないですよ」とは言わない。それ怒ってる人の典型だからね。


「じゃあ。プエラ、玄関でアンヌとハギトと一緒に待機をしておいてください」


「え、あ、はい。えっと、集落を探して殲滅ですか?」


 少し戸惑っているプエラ。叱責(勘違い)をされた後からなのかいつもと反応が違い見た目相応のかわいい反応だった。このロリババアめ、かわいいぞ!!

 てかちょっと待って。


「なぜ、殲滅という手段をとろうとしたのですか?」


 指示を出したことで考える時間が出来、少し落ち着き真顔に戻ったプエラは後ろに手を組む。


「確実性をとるのならほかのどの手段より殲滅をしてしまえばほかの可能性がなくなり、安全だと思いました」


「なるほど、確かにそうかもしれませんね。ですがプエラ。大事なことを忘れていますよ。あと、態度は崩してかまいません。公式な会議は終わりましたからね」


 と、ここまで言って気づく。


「そうでした、イリエボ。この後、アルクシィの行動予想を立てなさいといましたがよりも前に会議の記録を制作してください。今後も公式なものはすべて。行動予想はクダツに投げても構いませんから」


Tesテス


「話を戻しますがプエラ」


「あの、プエラさま~。キャラがもうブレブレですよー。」


 エルヴァージュうるさい。私も結構自覚してるんだから静かにしなさい。


「あー、うん。そうだよね~。むしろ十二人の守護者トランプがそろっていた時にキャラが保てていたのが奇跡というか」


「そうですね。ミゾン様は結構テンションで生きていますから」


 イリエボ~!!それにリーチナー!!何貴方たち敵なの!私の!?お願いだからこれ以上喋らないで!

 唯一私のキャラを知らないプエラが目の前にいるのだからこれ以上危険発言をしないでほしい・・・。


「ちょっと突然すぎるかもしれないですけど、こう考えたことはありますか?「外界の最大レベルが百以上」と」


「それは・・・」


「外界では私たちはただの弱者で狩られる存在でしかない可能性ですよ。プエラ」


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