おでめとう

 おめでとう、ユキ。

 結婚、おめでとう。

 私はユキの結婚をとっても応援していたし、いつまでも太郎さんと幸せになって欲しいと思っています。

 そう言えばユキに太郎さんを紹介したのは私だったね。いつも、心配ばかりかけるユキにはしっかりものの彼氏が必要だと思っていたので、二人がカップルになった時はとても嬉しかったです。

 私が恋のキューピッドになれたことを本当に心の底から感謝しました。

 でも、その後、太郎さんがバイクの事故で帰らぬ人になり、ユキはとっても落ち込んでいたよね。ユキが大学でもすごく悲しそうにしていて、それを見るのが友達としてとってもつらかったです。

 ユキは言ったよね。

 太郎さんのところに行きたいって。

 太郎さんと天国で結ばれたいって言ったよね。

 でも。

 私はユキにそんな風に思って欲しくなくて、いつも心配していました。いつか悲しい目にあってしまうんじゃないかって、本当に本当に心の底から心配でした。

 案の定、ユキはそれから間もなくして大学を辞めて、仕事に就きましたね。

 大きな会社の社長秘書の仕事だったから、私も友達も安心しました。太郎さんとの思い出がたくさんある大学で時間を過ごすのはつらかったんだね。すごくその気持ちはわかるよ。つらかったんだと思う。ユキが大学を辞めたのは逃げたんじゃなくて、前に進むためだって、みんなで応援したもんね。

 でも、そんな日。

 天国へのチケットが現世でも発売されるようになって、ユキも私も驚いたよね。

 本来、天国は地獄と悪魔界、裏地球などの、非正確路線の上に立つ、世界線の中でも、現世とは大きく差のあるものだったし、そこから始まる、ハイトニ、エラルデ、ドシャルドの地下宝石たちの大いなる意思によってでしか交わらないことは、百年四間四十論争の結論としては既に出ていたし、これ自体に異を唱えることは、世界会議における重要項目を無視した行動として罰則を受ける可能性があったからタブーだっつたよね。

 そうだよね。

 タブーだったよね。

 でも。

 チケットできちゃったよね。

 できちゃったよね。

 ユキがそのチケットを一生懸命お金をためて手に入れて、天国にいる太郎さんを現世に連れていけるよう、交渉したよね。それは驚きました。あの、いつも誰かの後ろで誰かのした行為の真似事ばかりしていたユキが自分の意思で大きな決断をしたことに本当に驚いたし、ずっと近くにいた友達としてとても嬉しかったです。

 今は、ユキと太郎さんが、日本一、いや、世界一、いや、規格世界線一、いや、クレデヴィデヴェモルタァハヌワ一の幸せなカップルで、しかも夫婦になると確信しています。

 そして。

 太郎さん。

 いえ。

 太郎さんの形をした肉の塊。

 あなたの使命はユキに本当の太郎さんが帰ってきたと勘違いさせることだからね。太郎さんがいなくなったことで、失明と失聴を起こしたユキはまだ貴方のことを本当に太郎さんだと思っています。

 これからは、そうやってユキに幸せな勘違いをさせ続けることができるように努力してください。

 うん、ユキ、大丈夫だよ。何でもないよ。

 雰囲気が変わったから怖かったのかな、大丈夫だよ、ユキ。

 ユキは今、幸せになれてるよ。

 さぁ。

 本当に、本当におめでとう。

 友人として心からこの結婚を祝福しています。

 おめでとうっ、ユキっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る