ドラゴン狩りの凱歌

 近付いてきて初めて今回のブルードラゴンの巨体が認識できる。演習で相手をしていたレッドドラゴンより一回り上という事実が、実体を伴って重くのしかかってくる。

 まず巨体による圧迫感から感じる恐怖は倍の強さに感じるし、巨躯によって急所への攻撃はさらに困難になっている。おまけにあの氷の鎧だ。白兵での動きは早くないかもしれないが、魔術による攻撃を併用してくる可能性が高い。演習通りにはいかないことが明白だ。


 近付きながら右手に短剣を抜いてブルードラゴンに投擲する。短剣は氷の鎧に突き立つが、なんら反応もなく有効な攻撃にはなっていないだろう。氷の固さと厚さが想像できる。

 続けてさらに一投と短剣を放つ。ブルードラゴンは反応することなく同様に効果がないようだ。

 剣での通常攻撃では、浅い傷しか与えることができ無い。まともに戦うとこの冷気に囲まれた中での長期戦となる。明らかに不利だろう。

 ドラゴンが魔力を収束させて、氷の槍を放ってくる。見え見えの攻撃だが足場が悪い、慎重に避けるが着弾と同時に白煙と砕けた鋭い氷の破片が辺りに飛散する。

 思わず盾の魔術を発動して破片を防ぐ。これを長時間続ければ魔力と体力が無くなっていく。

 そろそろこちらから仕掛ける番だろう。僕は仕込んでいた幻影を解除して魔術を起動する。

 ブルードラゴンの足元には魔術の幻影で隠していた魔術を付与した魔石がいくつも転がっている。その魔石に封じられた魔術が発動して、あたりに白煙が立ち込める。ただの白煙ではなく魔力も攪乱するため、ブルードラゴンの視界と感覚を封じる役割を果たしている。


 その間に剣を抜いて起動し、正面を避けるように近付いていく。ようやく白兵戦距離へと接近できたが、聳え立つ巨躯への恐怖を飲み込む。

 ブルードラゴンの正面には白煙越しに僕の幻影を送り込む。食らえば致命的であろう爪が、無意味に振るわれているのを横目に次の一手を打つ。

 ブルードラゴンは何度も白煙を吹き払うが煙は続けて立ち上り、視界に絡みつくように頭を覆っていく。ブルードラゴンを守る氷の鎧が逆に自身を縛り邪魔をしている。

 僕は急所への距離を詰めるために土の魔術を放ち足元の大地を隆起させて、隆起させた土台に足をかけて跳び上がると同時に風の魔術で上方へとより高く飛ばす。

 ブルードラゴンの肘が見えるところまで飛び上がり、取り付くように近付いて火の魔術を足に纏わせて踏みつける様に蹴る。厚い氷の鎧には効かないが、氷が溶けて足掛かりとなり、次の跳躍へとつなげブルードラゴンの前肢の肩まで跳ぶ。

 次の一歩は牽制した時に突き刺さった短剣を足場にする。ブルードラゴンの動く氷の鎧の足場に狙いが定まらないが、何とか短剣へと足を掛ける。

 瞬間、様子を窺うがブルードラゴンへ有効打を与えていないせいか、奴の痛覚を刺激していないからからか、まだ僕の動きは認識されていないようだ。


 最後に首に向かって飛ぶがまだ高さが足りない。このままではあえなく落下して最悪の状況を迎えるだろう。落下が始まる前に盾を足元にくぐらせて屈みこむと盾から手を外す。これならいけそうだ。

 足場に使う風の魔術を盾に向けて発動する。空中に盾を使った安定した足場が出来上がり、高く飛び上がる。視界が大きくぶれて身体を強制的に上昇させられる感触から、ふわりとした浮遊感へと変わっていく。

 足元には白煙に包まれたブルードラゴンの首が見下ろせる。

 すかさず鋭刃化の魔術を発動し、刃の上に鋭い魔力が走り出す。訓練の成果で満足できる魔力の刃が出来上がる。剣を上段へ振り被り無防備なドラゴンの首へと振り下ろす。

 ブルードラゴンの固い鱗へと剣が食い込んだと同時にとどめとばかりに衝破の魔術を発動させる。剣と全身を下へ下へと押し下げる強引な加速が働いてさらに切り進む力を与える。

 余りの力に全身が悲鳴を上げ、剣が折れよとばかりに力がかかるが、耐え切ってブルードラゴンの強靭な筋肉を切り裂き、強固な骨を断ち切った。剣がブルードラゴンの首の向こう側へと振り抜かれる。


 やったと勝利を確信したが、今の状態は勢いがつきすぎている。まずいことにこのままでは氷の大地に叩きつけられて無事でいられない。

 とっさに取った手段はいつか見た地面を軟化させる魔術だった。何とかこれでと思い即座に放つ。

 そのまま大地へと激突し、凍れる岩山にふさわしくない抱きとめる感覚に包まれる。

 んっ?抱き留められているような感覚、ではない。これは抱き抱えられている?と思って、目を開くとエルダ姉さんの顔が正面にある。

「アレン、おめでとう。約束通りだね。これで最年少ドラゴンスレイヤーよ。」

「狡い、狡すぎます。私に地面のフォローさせてアレン兄さんを抱き抱えるなんて。」

 役得役得と言って頬擦りする姉さんに遅れてデリラも抱き着いてくる。僕らは土まみれだが、幸いブルードラゴンの血が噴き出すには血が冷たすぎたのだろう。振り向くと巨大な冷凍ドラゴンが出来上がっていた。

「暖かいわね。」

「暖かいです。」

「家に帰って暖まりたいな。」

 しばらくして、ようやく生きている実感が出てきて、ドラゴンを見ていると最後に振り抜いた剣の手応えを思い出す。勝った実感が少し湧いてきた。

 おかしいな。急に歌を思い出した。


ワン ヒュージィ、トゥー ヒュージィ、スリー ヒュージィ ドラゴンズ


エルダ姉さんとデリラが続く。


フォー ヒュージィ、ファイブ ヒュージィ、シックス ヒュージィ ドラゴンズ

セブン ヒュージィ、エイト ヒュージィ、ナイン ヒュージィ ドラゴンズ

テン ヒュージィ ドラゴンズ ネスト


帰り道には笑いながらずっとこれを歌っていた。

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