ロード

よこやま

第1話 タバコとコーヒー

タバコが吸いたかった。

だからドトールコーヒーに、男は入った。

コーヒーは別に飲みたくなかった、けれど注文をしないと席に居れない、だから男は、そんなに飲みたくもないアメリカンコーヒーを注文した。

今の男にとっては何の価値もないコーヒーを右手で運び、喫煙スペース入口のスライドドアを横に押して、揺れるコーヒーの波紋をちらと見ながら、こぼれないかと少し心配しながら、価値もないのにこぼれそうだと心配になる不思議を感じながら、空いているカウンター席に腰掛けた。右端の良い席だった。右利きだから、仮に横に誰か来ても腕の干渉が無い、良い席だ。

飲みたくなかったはずなのに、先にコーヒーをすすった。きっとこれは口を湿らせたいという本能なのだろう、タバコを乾いた口で吸うのは、何だか不完全な悪い気持ちがするものだ、まるで湿っていない何かに大切な黄金な何かをブチ込むような。

ズズッと一口のコーヒーを飲みこむや否や、マールボロライト、いわゆるキンマル(死語なのかもね)に火をつけ、スッと煙を吸って、フウっと煙を吐いた。

モクっと煙がただよった。

なんて事のないこの行為が、なんと素晴らしい事か。

これがしたくて、コーヒー屋に入るという矛盾はあれど、この気分が味わいたかったのだ。サイコーだ。サイコーは一瞬で良い。一瞬で十分だから、サイコーという感情なのだ。

1本吸い終わった後、1人のにいちゃんが喫煙スペースに入ってきた。

チャッチャッ、ライターで火をつけようとしている。

ぼくは言った。

「もうぼくは1本吸い終わった。そしてもう1本吸いたくは無い。だから、きみ、ここでタバコを吸うのはやめてくれないか?」

「はぁ…?頭おかしいんか?」と怪訝そうな顔で返事を返される。

「おかしくなんか無い!タバコやめろ!!」ぼくは激昂する。

「いい加減にせえ!」ブワッとコブシを振り上げ、ぼくに殴りかかる。

バスッッッ!

ドチャッ…ゴロゴロゴロゴロ……

モクっと煙がただよった。

にいちゃんが口にくわえたタバコから。でもにいちゃんの頭は、もう既に胴体についてはいなかった、なぜならば、切り取られてしまったからだ「男」の手刀で。

男の手刀で。

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