#40





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 気がついたとき柏木は、ボロボロに破壊されたコンクリートの部屋のなかで両手を上げて吊るされていた。

 上半身は破けたシャツ一枚。下半身は軍用の迷彩ズボンをつけていた。多少の打撲や擦り傷はあるものの、大きな怪我はなかった。

 充血した目と黒光りする肌の反乱軍の兵隊がやってきて、彼に何事かを話しかけた。その当時のジンバブエの公用語は12もあり、彼が理解できるのはそのうち4つの言葉だけだった。そして残念ながら、その兵士の甲高い声で話される言語は、彼の辞書にはない種類のものだった。


 そうこうするうちに、兵隊たちの数は増えた。

 彼らは興奮して何事かを大声でわめき立てていた。柏木は本能的に恐怖を覚えた。明らかに良からぬことが自分の身に降りかかることが予感された。

 やがて彼はここが、つい先日まで彼らが投宿していた都心のホテルであることに気づいた。戦火で半分破壊されてはいるが、窓の外には見慣れた首都の景色が見えた。光の加減から、時間はまだ午前中であることが分かった。


 不意に。


 背後から、腰を押さえつけられた。

 そして、ベルトを緩められ、迷彩ズボンを膝まで下ろされた。


 高い声で、黒人兵士たちが何事かを叫んでいる。

 彼は全身に冷や汗をかいていた。


 下着のブリーフも下ろされ、下半身がむき出しとなった。

 恐怖に舌がもつれ、喉からは言葉も出ない。乾いた息だけが、ぜいぜいと喉を出入りする。

 熱いアフリカの空気が、陰部に触れた。

 吊るしあげられた彼の目の前に、若い兵士が寄ってきた。そしてその吐息がかかるほど間近で、彼をじっと見つめた。


「何を…するつもりだ」


 通ずるはずのない日本語で、彼はその若い兵士に問いかけた。


 と、自分の尻に、誰かの指が当てられるのを感じた。


「やめ…っ!」


 言葉も半ばに、何かぬるりとした液体が、尻の穴に塗られたのを感じる。

 その時やっと、自分が置かれた立場に彼は明確に思い至った。


「やめろぉ!! やめろ! や、やめろ! やめっ!!」


 大声で叫ぶものの、左右から黒人兵士に身体を押さえつけられ、身動きも取れない。

 背後にいる、顔も見えない誰かが、彼の尻の穴に、ペニスを突き立てるのが分かる。


 メリッ。


 音などしない。するはずがない。

 しかし、彼の意識は明確に、肛門と直腸が裂ける音を意識していた。

 巨大なアフリカ人の、鉄のように固く勃起した性器が、東洋人の彼の狭い肛門に、差し込まれた。

 オイルのような何かは、すこしも潤滑油の役目を果たさない。しかし、その姿の見えぬ挿入者の強い力で、硬いペニスはメリメリと彼の直腸に挿入されていった。


 うぅぅぅぅ…。


 例えようもない違和感。

 そして、身を裂かれるような痛み。

 涙がほろりと、左の眼から流れる。そして目をつむろうとすると、


「!!!!!!!!!!!!!!」


 目の前の若い兵士に、大声で怒鳴られた。

 何を言っているのかは全くわからないが、彼の黒々とした肌と、闇に浮かび上がるような白目、そして何もかもを貫き通すような意志の強い瞳が、彼を射抜いた。


 目を閉じるな。


 そう言われているのだ、と彼は気づく。

 激しい痛みが下腹部を襲うなか、その兵士の差すような視線が、柏木の瞳の中を探る。

 肛門を、顔の見えない誰かに犯されながら、年若い黒人の青年将校に魂の奥底までを見つめられた。身動きすることもできず、痛みと、恥辱にまみれて。


 しかしその瞳は彼の理性を貫き、精神をいた。肉が焦げるように、彼の心の柔らかい部分を、その瞳は容赦なく突き刺し、ズタズタに引き裂き、そしてそこにあるかすかな自負をも焼き払った。

 なにもない。

 柏木にはもう、守るべき何もかもが、残ってはいなかった。


 最初は、犯し手が上官で、この見つめ手が部下なのだと思った。

 しかし、それは全くの逆であった。

 この見つめ手の指示で、見知らぬアフリカ人のペニスが、彼の肛門を引き裂いているのだ。

 何度かの容赦ないピストン運動の果てに、驚くほど大量の精液を、彼の直腸は受け止めた。

 ビュッ、ビュッ、と精液が強く直腸内に放たれるのを感じた時、彼は意識を失いそうになった。


 そしてまた、青年将校の怒鳴り声。

 彼は、射精されながら、嘔吐した。


 その後、部隊の展開配置、人員数など、知る限りのすべてを彼は自白した。




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