ふたつのまじわり

#28





 柏木の指がエリの胸のふくらみに、そっと、触れた。

 確かめるように。傷つけぬように。

 モチモチとしたやわらかな素肌にその硬い指が置かれ、ゆっくりと包み込む。


「あぁ…」


 ため息のような声が、エリの唇から漏れる。

 指の股で先端の突起を挟まれ、くりくりと刺激される。

 敏感になったそこは硬くすぼまって、その刺激を存分に味わう。

 大きな手のひらが、やや小ぶりなエリのふくらみを覆い、それをゆっくりとねてゆく。


 裸の柏木が同じく衣服をまとわないエリの上にのしかかる。太ももに彼のものが触れ、それが熱くたぎっていることを教える。内腿の柔肌を這う、柏木の熱く硬い幹。先端からその蜜がしたたるのを感じる。それだけでエリの身体はさらに熱を増す。

 エリの髪をかき分け、その耳に唇を這わす。耳たぶを甘噛みし、舌がエリの耳に侵入する。その熱い吐息。押し付けられる胸板と、微かにクセのある体臭。身体に電流が走り、


「あぁぁっ……」


 あえぎ声混じりの吐息を抑えることができないエリ。

 柏木の肌。その息。その熱。エリは全て取り込もうと、彼の太ももに自分の脚を絡める。


 柏木に触れていたかった。

 彼をつなぎとめておきたかった。


 ほんの15分前、部屋に入った時、照明をつけぬままエリを抱きしめたのは柏木の方だった。しばらくの抱擁の後、彼は窓のカーテンをすべて締め切った。


「何も見えないわ」


 そういうエリに柏木はその手をとり、慣れた部屋を歩くようにベッドへ彼女を導いた。


「今日はこのまま、この暗闇のなかで……」

 柏木はエリの衣服を脱がせながら、穏やかな声でそう言った。

 真夜中近い時間。視界を全く奪われた世界。そんな中でエリは彼を受け入れていた。目を開けても見えるのはかすかな彼の身体の輪郭だけ。目を閉じても視界はさほど変わらない。


 すべての衣服を脱がされ、柏木もシャツを乱雑にはいだ。

 ふたりはベッドに倒れ込むと、肌と肌を合わせた。それだけで身体が反応し、吸い付くように互いの素肌が交わった。

 目を閉じて、自分の肌の感覚を解き放って、エリは彼を感じていた。

 二度と訪れないと思っていた機会を奇跡にしないために。




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