第54話 心霊特番

 これは、Mさん家族が二十五年も前に体験した話だ。


当時まだ心霊番組がテレビのゴールデンタイムで放送されていた頃、Mさん三人家族は、いつもより遅めの晩御飯を囲みながらテレビで心霊特番の番組を見ていた。


お茶の間の名物リポーターが司会を務める中、中継を挟み生放送で廃墟の病院を、芸能人数人が探索するといった内容だった。


身も知らぬどこぞのグラビアアイドルがキャーキャーと喚き散らすのを、母親が怪訝そうな顔で見守る中、父親はそれを笑い飛ばしながら晩酌を楽しんでいる。

息子に至っては一向に進まない箸を止めたまま画面に食いついていた。


中継していた芸能人が、壁の染みが顔に見えると言い出し、それを見て会場が大袈裟にざわついている。


名物司会者がそれをなだめ、番組も終盤に差し掛かったので、中継先にそれを伝え始めた。


すると突然画面が切り替わり、編集された先程の病院探索の映像がリプレイで流れ始めた。

ナレーションの男性の声が映像と共に流れる。


『我々の探索は一旦ここで終了する事となったが、実は、カメラはとんでもないものを捉えていた!』


派手なテロップとサウンドエフェクトが流れ、映像はスローモーションへと変わる。


「おっ!何が映ってたんだ?」


楽しそうにテレビを覗き見る父親、それを見て母親が顔をしかめる。


「もうやめてよ」


目を細めなるべく見ないようにと顔を反らす。


息子は相変わらずポカンと口を開けたままテレビに釘付けになっている。


画面の中では、壁や天井が崩れ掛けた病院の廊下を映し、それがスローモーションでゆっくりと流れたところで急に止まった。


その時だった。


「あっ!子供!ほら子供がいるよほら!!」


息子が持っていた箸を投げ出しテレビの画面、崩れたた天井を指さしながら喚き出した。


「あらヤダ本当……嫌だこんなの、気持ち悪い……」


母親は子供が指さす場所を見て顔を更に遠ざける。


「本当……だな……子供だ……こんな暗がりの天井に子供なんておかしいだろ……作りもんとかじゃないのか?」


「ええ!これ本物だよ!だってスローモーションの時顔がちょっと動いてたもん!」


すると、画面はリプレイ映像に切り替わり、再びスローモーション再生に切り替わった。


「うわあ……本当だ……ちょっと動いてる……もうお父さんチャンネル替えてよ」


これ以上見てられないと母親が抗議の目を向けるが、父親も息子同然画面に釘付けになっていた。


「こ、こりゃ凄いな……こんなの初めて見たぞ……やらせかなあ」


父親が感心しながらそう言った時だ。


テレビからナレーションの声と大袈裟なサウンドエフェクトが再び響いた。


『画面中央、アイドルの肩に注目!よく見ると人の手のようなものが見えるのが分かるだろうか?我々は今後も、この映像に関して詳しく調べ追求していくつもりだ』


「えっ……?」


父親から呆気に取られたような声が漏れる。


「手って……どういう事お父さん?」


困惑した母親がそう尋ねるが、父親も未だ釈然としないまま画面を見ている。


「手じゃないよ子供だよ!何言ってるのこの人お」


息子がテレビのナレーションに対し盛大に文句をつけた。


三人がああだこうだと言っている中、画面には回想シーンとスタッフスクロールが流れ始めている。


「いや、最後に実は!とか言ってもう一度流れるんじゃないか?」


「そそ、そうね……」


父親の言葉に母親が賛同の声をあげるが、特番はその後何事もなかったかのように終了してしまった。





後に大きくなった息子は、現在もYouTubeなどで昔のオカルト特番の過去映像を見漁っているらしいが、未だにあの映像とは再会できていないそうだ。


あの、天井裏から芸能人達をじっと睨みつける、幼い男の子の映像に……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る