第23話 チュートリアル
三葉重工の研究棟、地下に作られた実験室……と言うなの実質的な訓練場。
俺と凛華、そして何故か伊織もいる。
さらには三葉重工側の人間として、カレンと神楽さん、ほか数名の研究員の人。
今日のカレンはいかにも研究者然とした白衣姿だ。
対して普段は白衣姿の神楽さんが……何故か探索者のような戦闘服。
俺達も予め用意された服……ジャージのようなものに着替えている。
「さて、揃ったことだし始めましょう」
パンパンと手を叩いて注意を向けると、カレンからの説明が始まった。
「まず、これからここで行われることに関して全員に守秘義務を設けます。みだりに外部へ漏らさないように」
俺達も含め、全員が頷き肯定の意を示す。
よくよく考えたら未発表の最先端技術と言ってもいいものだしなぁ。
魔力なんて概念があるのは噂されてはいるものの、どこかの研究機関が発表したという記録はない。
「まずは『魔力』について、現状でわかっている範囲内で話しましょう。『魔力』は誰にでも宿っていて無意識に使っているエネルギーです。これがダンジョン発生以前からかは証明出来ませんが、少なくとも発生以降に生まれた人と調査した探索者の一部には確認されています」
そこで一拍置いてリモコンを操作し、空中にホログラムを投影した。
そこにはサンプルの番号と、バラバラに伸びた横棒がずらりと並んでいる。
「これは調査で得られた『魔力』量をわかりやすくグラフにしたものです。ただし、基準が決まっていませんので大体の数字だと思って下さい。見てわかると思いますが、個人差はあります。その上、量の他に質と属性という要素も加えられます」
……ふむ、よくわからん。
俺だけかと思って凛華と伊織も見てみると、二人とも首を傾げて険しい顔をしていた。
よかった、俺だけじゃなかった。
「と言ってもわからないでしょうから、少し実演してみましょうか。神楽さん」
「ええ。これから私が行うのは現実の『魔法』です。一応、暴発しても安全なように少し離れていて下さい」
半信半疑で、しかし冗談ではないと見える神楽さんの言葉に、一同が顔を見合わせて壁へ寄った。
静寂に包まれる実験室。
中心で神楽さんが前方へ手を伸ばして、
「――氷よ」
瞬間、神楽さんの手のひらの先に煌めく粒子が渦を巻く。
小さな透明の礫を形成し、徐々に大きく成長して最終的に人間の頭くらいのサイズの氷塊が生まれた。
さらに驚くべきことに、その氷塊は床に落ちることなく宙に浮かんだまま。
明らかに現実の理から外れたもの。
最後に氷塊を頭上へ打ち上げて、天井に衝突する前に元の煌めく粒子へと姿を変えて実験室に降り注いだ。
手品のように種も仕掛けもない正真正銘の『魔法』を目の前で見せられては、前置きがあったとしても驚いてしまう。
伊織と凛華も同じような感じだ。
特に伊織の興奮具合が凄い。
リアルなファンタジーは偉大だな。
「……とまあ、こんな感じです」
「本当にいつ見ても綺麗ね。今から現役に復帰してもやっていけるんじゃない?」
「私にはこっちの方が性に合ってるので」
首を振って答える神楽さんは、出番は終わりとばかりに後ろへ下がった。
復帰……って、神楽さんは元々探索者だったのか。
あれだけの『魔法』が使えるとなれば相当な使い手なのだろう。
「説明に戻るけれど、さっきのが『魔法』よ。因みに神楽さんが持っているスキルは『魔法』を使えるようになるものじゃなく、『魔力』の運用に関するスキルよ」
「……てことは、修練次第で誰でも使えるようになる可能性があるってこと?」
「そういうこと。その前に自由自在に『魔力』を使えるようになるのが条件ではあるけれどね」
『魔法』を使う為には『魔力』の扱いを覚えなければ先に進めない……か。
道のりは長そうだけど、使えれば確かに有用だな。
「一つ質問いい?」
「いいわよ、一ノ瀬さん」
「『魔法』の応用はどこまで効くの? さっきのは氷塊だったけど、形を変えたり水の『魔法』としても使えるのかと思って」
凛華の質問に内心でなるほどと思う。
自分の工夫次第で手札がどれだけ増やせるかは探索者にとって重要だ。
「いい質問ね、答えはイエスよ。使える『魔法』は本人が持つ属性と、想像力に左右されるわ。イメージが強固であればあるほど、『魔法』の可能性は無限と言ってもいいわ。複雑なほど『魔法』としての難易度は高まるけどね」
「へぇ。面白いじゃない」
満足したのか、凛華は楽しそうに笑っていた。
努力は俺も凛華も嫌いじゃない。
カレンは俺達三人を見回し、誰も質問がないのを確認して、
「質問がないなら、早速『魔力』操作の練習を始めましょうか」
斯くして、新たな力を得るための修練が始まるのだった。
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