【3話】アマイモン家の日常
日課である筋肉トレーニングをほどほどに終えた俺は、休憩に入る事にした。
腕立て500回というのがほどほどかどうかというのは部族によって異なるが、体が半透明で魔法を得意とするレイス族なんかとは違い、ウチは物理系だからね。
「なんだルー、もう終わりかい。弟は情けないなぁ! ははは!」
「違うよグレイグ兄さん、子供のうちから鍛えすぎると背が伸びなくなるんだよ」
「……何だってっ!?」
嘘である。
地球の感覚がこのチート部族に通用するとは考えない方がいい、ただ俺が休憩しているだけなのだ。
ちなみに兄はグレイグ・アマイモン兄さん、長男で10歳だ。
うちの家族構成はウルベルト父さん、ベルニーニ母さんが30歳手前くらい、そしてグレイグ兄さんと俺という4人家族。
母さん側はともかく、父さん側の祖父と祖母は以前の侵略戦争の時に亡くなってしまったらしい。
うちの部族は寿命も長ければ若い時代もかなり長く、まだまだ現役であった祖父と祖母はその侵略者たちに勇敢に立ち向かっていった結果、向こう側の最強戦力にして主戦力であるソウ・サガワと呼ばれる者とその仲間たちに打ち取られた。
まあその後、うちの国の英雄である父さんたちが返りうちにしたんだけど。
これ聞いた時に、あっ、こいつ日本人だって思ったね。
神様に転生されたのか転移させられたのか、なんなのか知らないけど、今後日本人とは対立したくないなって思う。
だって俺、日本人だし。
平和が一番ですよ。
話がそれたが、つまり今この家には使用人や従者を除き、家族は4人という事だ。
「……ふむ。グレイグ、ルーケイドはまだ3歳なのだ、焦らせなくていい。普通、3歳といったら訓練にも参加させられない年齢だぞ。それに比べたらルーケイドは早熟、天才といってもいい。それと背が伸びないというのは嘘だ。その証拠に私の背は高い」
「なっ、嘘なのかいルー!?」
俺の話がデマだと知ったグレイグ兄さんが驚く。
純粋すぎるだろ兄さん、そんなのでこの先の村社会を渡り歩いていけるのか心配になるよ。
良いやつであるのは間違いないんだけど、将来が心配だ。
グレイグ兄さんは父さんと同じく角の生えたアマイモン家に相応しい人物なので、是非とも大成してもらいたいのだ。
そして俺が早熟なのは、ベルニーニ母さんの授業をずっと受けている事が大きい。
ベルニーニ母さんの血筋は魔力が突出して高く、ウルベルト父さんのように素の肉体能力はそこまででもないが、魔力を制御し消費する事で様々な特殊能力や、魔法などの肉体機能の補助が可能になる。
俺が教えてもらったのは専門用語的に【身体強化】っていう魔法らしいんだけど、まあ、ようするにドーピングできるのだ。
ようするに、転生者である俺はもちろん生まれてからの記憶があり、言葉の習得が1年ほどで完了したおかげで、母さんの部族の特徴である魔力訓練を行えるようになったという訳だ。
故に、1歳である程度の意思疎通が図れるようになった俺は、自分から強請った魔力訓練を始めて以降ずっとこの肉体制御のコントロールに費やしてきたおかげで、体に見合わない力を発揮できるようになった。
父さんが早熟と言ったのも肉体の話ではなく、魔法の技術が年齢に比べて高い事を意味している。
魔法を覚えたいといった時の母さんは喜びようは大きかったが、あれはたぶんグレイグ兄さんが剣の道へと興味を示してしまったからだろう。
母さんも自分の技術を子供に教えたかったのだ。
「グレイグ、あなたはもう少年と言っても差し支えが無いけど、ルーケイドはまだ幼児なの。いくら私の血が濃いといっても3歳じゃ魔力量が心許ないし、魔力を消費してしまえば訓練は続けられないのよ。本当は訓練なんて危ないことさせたくないのだけど……」
「そうだったのかい、ルー……」
母さんが魔力量が心許ないと言っているが、まだ俺の魔力が切れた事は一度もない。
魔力量っていうのは数値化できる技術がある訳でもないから結構アバウトなのだそうだ。
ただ、大人になるにつれて大きくなるし、訓練によって伸びるとのこと。
「父さんとグレイグ兄さんはぼくの目標だからね。いつか兄さんたちみたいにカッコよく剣を振りたいんだ。もちろん魔法も大好きだけどね」
「……ルゥゥウウ!!!」
ちょろい。
少し涙ぐんだグレイグ兄さんが剣をほっぽり出して抱き着いてきた。
だけどもうちょっと優しく抱きしめてほしい、いくら魔力強化しているといっても幼児なのだ、兄さんの筋力でやられると苦しいものがある。
近くで一緒に訓練している従士たちも微笑ましいものを見るように笑っているが、マジで辛いんだぞこれ。
あっ、兄さんが父さんに拳骨を落とされて訓練に戻されていった。
途中でほっぽり出すなという事らしい。
訓練に関して父さんは厳しいのだ。
剣を握れるのは一般的には5歳からなので、それまでは魔力のコントロールによる肉体制御に費やそう。
今生の目標は楽しく、安全にだ。
そのためには強くなる必要があるだろうし、なにより魔法は楽しい。
魔力のコントロール、一般的に魔力制御と呼ばれるこの技術は一度自分の体内の魔力を感知してしまえば簡単なのだが、その魔力を感知するという部分が本来難しい。
俺の場合は魔法技術に長けた母さんが、体内の魔力をかき回してくれたおかげで感知する事ができたが、本来魔法というのはレアな技術なのだとか。
この国──リューズ王国というらしい──の魔法使いの平均は他国よりだいぶ高く、魔法使いの人数も多いのだが、これが他国となると魔法を使えるのは千人に一人とかいう割合になってくるそうだ。
それを考えると身体能力のタガがはずれた父さんと、高位の魔法使いであるらしい母さんという環境に恵まれた俺は、かなり安全な立ち位置と言えるだろう。
転生するときに聞いていた通りだ。
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