あこがれのロウリュ

いつか白馬に乗った王子様が私を迎えに来てくれる――。


昔の女の子はベッドに寝転び、そんな憧れを抱いていたそうだ。これが、おじさんになると違ってくる。


いつかアロマ水を持った熱波師ねっぱしさんが私を扇ぎに来てくれる――。


ひな壇に腰掛け、タオルいっちょで蒸されながら、そんな憧れを抱いているのだ。


サウナは「熱気浴ねっきよく」とも言われる。その名の通り、熱い空気を浴びる入浴方法というわけだ。この熱気浴をさらに楽しむ手段のひとつに「ロウリュ」がある。


ロウリュとは、ドライサウナ内のサウナストーンに水をかける行動を指す。熱せられた石にかけられた水はあっという間に気化し、結果として室内の湿度が上がる。湿度が上がるという事は、体感温度が一気に上がるということだ。乾燥した空気と湿った空気では、湿った空気の方が熱を伝えやすい。


つまり、ロウリュとは、意識的に湿度を上げることで体感温度を上げ、熱気浴の効果を高める手段なのだ。ジュワッという音と共に、体感温度が一気に上がり汗が噴き出す瞬間は、なんとも気持ちのいいものだ。


このロウリュ、サービスがある施設はまだまだ少ない。おじさんの地元近辺では1軒もありません。サービスがある場合でも、1日に2度ほど、午前と午後の決まった時間に1回ずつ程度の所が多いだろう。


ロウリュのサービスがある場合、決まった時間に店員さんが、桶と柄杓を手にサウナ室に入ってくる。ロウリュやアロマ水の説明後、柄杓でサウナストーンにアロマ水を何回かかけると、室内の空気が一気に変わる。


そして、これだけでは終わらない。店員さんはバスタオルや、大きな団扇でサウナストーン周辺や室内上部を扇ぎ、室内の空気を循環させる。高い場所に集まっていた熱い空気が、おじさんたちの頭上から降り注ぐ。熱気のシャワーだ。


さらに店員さんは、一人一人を個別に扇いで熱波を浴びせるのだ。押し寄せる熱波を浴びれば、一気に汗が噴き出す。気分爽快。いわゆる「アウフグース」と呼ばれるサービスだ。


そして、全てのおじさんを扇ぎ終わると、店員さんが挨拶をする。おじさんたちは拍手で店員さんを称えるのだ。ありがとう、店員さん。良い熱波でした。


ちなみにこのアウフグース、一通り扇ぎ終わった後に、「おかわり」のリクエストを受け付けてくれる施設もあるそうだ。また、ロウリュ&アウフグースの際には、氷をサービスをしてくれる施設もある。熱いサウナ室内で肌に当てる氷は、超気持ちいいです。口に入れてガリガリ行くのもたまらない。


氷を恵んでもらったおじさんたちは、砂漠で水を恵んでもらった民のように、皆で齧りつくのです。サウナ室内で氷を恵んでくれる店員さんは、さながらマッドマックス怒りのデスロードのイモータン・ジョーだ。氷を牛耳りおじさんたちを支配するのです。


さて、このロウリュやアウフグースを行う方の中には、「熱波師ねっぱし」と呼ばれるプロフェッショナルの方がいる。熱波師の方は、良い熱波を産み出すだけでなく、サウナ室を盛り上げるエンターテイナー的な役割も果たしている。ロウリュで湿度を上げると、頭上でバスタオルを華麗に振り回して空気を循環させる。かと思えば、今度は広げて扇ぎ、狙ったおじさんへと熱い熱波を浴びせかける。おじさん達は、そんな熱波師のタオル捌きにも酔いしれるのだ。


ちなみにおじさんは、バスタオル使いの熱波師さんのサービスは体験した事はありません。ちょっと憧れています。たまに行く施設では、バスタオルではなく大きなお祭り用の団扇で扇いでくれます。それはそれで、祭り感が出て好きなのです。


気持ちよく汗をかけるだけでなく、レジャー系サウナの花形イベントにもなっているロウリュ、ぜひ一度体験してみて下さい。おじさんも、いつか熱波師さんに扇がれる日を夢見て、今日もサウナに行くのです。

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